映画『スペースノア』の感想 | アキラの映画感想日記

アキラの映画感想日記

映画を通した社会批判

スペースノア

 

 

鬼畜米を疑え

米ソ冷戦において宇宙開発競争が熾烈だった頃、東西に分断された敗戦国ドイツの西側で後にデザスターの第一人者と呼ばれる世界的ヒットメイカーがデビューした。ローランドエメリッヒ。この頃から彼は宇宙を舞台にした壮大な物語に憧れていたようで宇宙船の中にはR2D2のフィギアが飾ってあったりもします。まあ、でかい宇宙でドッカンドッカンやるのは典型的な男の子のリビドーみたいなものだろう。それを徹底的にやるバカ映画の大将みたいなイメージがある訳だが初期は大規模な破壊の特撮をやる資金もなく今のようにお手軽にCGを作れるツールもないから80年代に撮った数本は色々と工夫が成されています。その中でも本作を改めて見返すと最近の彼があくまでもハリウッド資本だけに依存しない理由が分かるような気がします。ドイツ時代に最初に撮った本作は宇宙を舞台にしてはいるが描いているのは冷戦における鬼畜米への懐疑心。物語は宇宙ステーションで気象を変動させる実験をしていたチームにインドにサイクロンを発生させるよう命令が下る。あくまでも平和利用が目的だったクルーたちは暴力的に命令を強行しようとする鬼畜米のスパイに抗うが、そんなクルーたちの方が組織内ではスパイ扱いされる。

 

この頃から既にドイツも敗戦国として鬼畜米資本には頭が上がらないようだ。そもそも宇宙開発の人員は優秀なナチスの科学者チームを敗戦後すぐに米側と露側がリクルートして技術開発に成功した訳で「鬼畜米も露助もナチスの技術力なしじゃ大した開発もできないくせに」という敗戦国特有のルサンチマンが伺えます。クルーに対する極めて理不尽な扱いとその結末には反吐が出る。つまり本作はあからさまに米国批判の態度を示している作品なのです。とにかくユーラシア大陸全土を植民地扱いして鬼畜米の価値観に背く真っ当な国や覇権を奪おうとする国に対しては徹底的にテロリスト扱いして叩き潰す。そうやって自国を潰した後には朝鮮、ラオス、カンボジア、ベトナム、パレスチナ、ソマリア、ルワンダ、アフガン、イラク、シリア、リビア、ウクライナetc…と多くの国で私利私欲の為に虐殺を繰り返した無法者国家。大作SFを撮る為には当時のハリウッドは使い勝手が良かったかもしれないが、こんな無法者国家の価値観なんて最初から信用していない。だからこそ米国賛美みたいな映画を撮って大ヒットを出しながらも、イデオロギー自体には加担せず商業に徹する。そんなドイツ人娯楽監督としての矜持が伺えます。