映画『羊飼いと風船』の感想 | アキラの映画感想日記

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映画を通した社会批判

羊飼いと風船

 

 

コンドームで遊ぶな

中国でも西端の僻地だと風習も言語も北京とは大きく違う。モンゴル自治区やウィグル自治区やチベット自治区などの言葉はペルシア語のような響きがあります。そんな地方集落特有の事情を扱った中国映画は多々ありモンゴル自治区では『ジャライノール』『トゥヤーの結婚』『モンゴリアンピンポン』等、素朴な家族ドラマの中にピリッと風刺を効かせた作品が多々ある訳だがそれぞれ事情が特殊だけに日本では単に牧歌的作品として消費されています。チベット自治区では習近平同様に親が下放された田荘荘が『盗馬賊』『狩り場の掟』などで有名になった。この作品もチベット自治区特有の事情を扱っています。この手の辺境に住む田舎者は土着的な風習や宗教に心の安寧を得ながら中国政府が施す文明の利器で一定程度の生活の利便性を確保しています。この土着的倫理と合理的思考は基本的には相違える物ではないが事と次第によっては片方を選択する必要に迫られます。そんな中央政府の規制と宗教的風習がカチ合ってしまう一例が今作には描かれています。

 

いわゆる一人っ子政策って奴は適応されるのは都市部のホワイトカラーだけで地方のブルーカラーは二人まで子供を持つ事が許されて中央政府から無料でコンドームが配布されます。その一方でチベット仏教ってのは輪廻転生が信じられていて家族が亡くなったら次に生まれる家族に転生すると高僧に諭される事もあります。このヒロインは既に二人の息子を育てているので三人目が生まれると中央政府の支援や社会保障を受けられなくなります。そんな訳で生むべきか否かで仲が良かった家族が分断されます。このヒロインの妹は失恋を切っ掛けに出家していて仏教の価値観にある程度は染まっている訳だが文明圏(中国)の合理思考で損得も考えると生む訳にはいかない。そんな宗教的価値観と無宗教な共産党的合理主義の価値観は中国西端でいくつかの衝突を生んでいます。それこそ鬼畜米や親米クズジャップが騒ぎ立てるウィグル虐殺(単なる更生指導or追放)にしても本質はこのような宗教と文明のチェリーピッキングの結果が生んだ矛盾なのです。このヒロインは用心深くコンドームを常備してた訳だが子供が風船と間違えて持ち去った事で生でする羽目になり妊娠してしまった。この映画の冒頭はそんな子供が遊ぶコンドーム越しのショットで始まる。いわゆる愛奇芸資本にしては珍しくアート系として高い評価を受けているようだが確かにタルコフスキーの『ローラとバイオリン』を思わせるような見事なショットが多々出て来て絵的にも飽きさせません。