映画『ブース』の感想 | アキラの映画感想日記

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映画を通した社会批判

絶対恐怖 Booth ブース

 

 

疑心暗鬼に至るコミュエラー

今や押しも押されぬヒットメイカーとして『チームバチスタ』シリーズ等、数多くのヒット作を世に出し続ける中村義洋だが、元々はオカルト系の構成作家だっただけにホラー系の仕事をしてた訳で、そんな初期の仕事を試しに拝見。今作の翌年には伊坂幸太郎と組んでブレイクする訳だが、それに至るであろうトリックの見せ方の上手さは今作でも際立っています。この話自体は古いラジオ局の呪われたスタジオでラジオDJが心霊現象に襲われるという何とも陳腐なオカルトな訳だが、その手の幽霊の見せ方よりもスタジオ内の人間関係の見せ方が抜群に上手い。このDJは自称恋愛マスターだが女性の扱いが酷く色々と恨みを買っていて、そこに負い目を感じているからこそ逆ギレしてドツボにハマる訳だが、その過程で次第に構成作家もディレクターもエンジニアもリスナーも誰もが自分に復讐を果たそうとする敵に思えて来てしまう。ブース内からは外の声が聴こえないから、いくら周囲のスタッフが彼を案じても彼から見ると悪意タップリに嘲笑してるかのように見えてしまう。

 

この手のコミュニケーションエラーは制作現場では珍しい事ではありません。それこそ競争意識が強い日本の大企業の現場では身近なスタッフにさえ疑念が湧いて疑心暗鬼に陥る事があります。そうやって勘違いから人間関係が壊れたりして。そんな神経症に陥ってる奴が大企業リストラ組には多い。その手の神経症に陥るとマトモな仕事はできないし現場を混乱させるだけです。そんな現場はなるべく避けたい所だが今作では実際に疑心暗鬼状態になってしまう時のコミュニケーションエラーが実に的確に描き込まれています。この主人公自体には全く同情できないが、この手の勘違いの連続で仕事場で周囲を疑ってしまう気持ちは痛いほどに分かります。そんな時は一息ついて冷静に相手の立場を考えれば色々と見えて来る事もある。だが頭に血が上りテンパってしまうと負の連鎖で失敗の連続に陥ります。この主人公の状態が正にそうだが、この手の失敗は自分もしてるし、した事がない仕事仲間も少ない。つまりはクリエイティヴ系の業界にはよくある事なのです。それをトリックとして引き付ける上手さは正に『アヒルと鴨のコインロッカー』の語り口に見た見事さと同じでした。その上手さに唸らされると同時に、この手の神経症は今でも現場には生じるのでオカルトよりもリアルな恐怖を感じました。