映画『海洋天堂』の感想 | アキラの映画感想日記

アキラの映画感想日記

映画を通した社会批判

海洋天堂

 

 

死別までにできる事

 

最近の日本ではネオリベ的な腐った価値観が蔓延り社会や共同体が壊れてしまっているから障害を持った我が子を託すに足る信頼を持てる相手を見つけられず我が子を殺めるなんて悲惨な話も聞く機会が増えるようになりました。この映画は中国版の『湯を沸かすほどの熱い愛』って所。知的障害のある息子と暮らす水族館職員の話。父は末期癌で余命僅か。って訳で息子にひとりでも生活できるように教えつつも養護施設を探す。そんな父だから好意を寄せてくれる女性がいても未亡人にするのも障害がある息子を押し付けるのも申し訳なくて再婚はできない。そんな献身的な父と彼に甘える息子の姿を幻想的な映像で綴る。まんまアジア海洋映画祭に出せば簡単にグランプリを取れそうな内容。私も号泣させられました。

 

ただスタッフキャストがあまりに豪華だから、あの低予算映画祭にはそぐわない商業系。撮影がクリストファードイルで編集がウィリアムチャンで音楽が久石譲ってんだから感覚的に引き込まれるのは当たり前。主演がリーリンチェイって所もアクションでもないのに無駄に豪華。女性キャストがやたら美人揃いって所も無駄な豪華さのひとつかも。そんなにあざとくヒットを狙わなくても話の内容だけで充分にロングラン狙えそうなのに。とはいえウォンカーウェイ組での奇を衒ったような演出で名を上げたスタッフも今となっては実に洗練された正当法で良い仕事をしていて、このスタッフを使っているのは伊達じゃない。とにかく息子と死別する前にできる限りの事をしてやりたい親の気持ちって奴が普遍的に心を打つのだ。いつか親と死別しなければならないのは健常者でも同じ。だからこそ親や子供への気持ちが普遍的な共感を呼び、その切なさに涙が流れるのだ。