映画『スペーススウィーパーズ』の感想 | アキラの映画感想日記

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映画を通した社会批判

スペース・スウィーパーズ

 

 

ブルジョワ優性思想

最近の韓国の未来SFって奴はサンホの『ジョンイ』にしてもジュノの『スノーピアサー』にしても貧困と階級社会って奴が露骨に出ています。いわゆるデストピア系で暗い世相を反映してるって所でしょう。とりあえず日本は一億総貧困化の問題外社会ではあるが、それなら他のアジア諸国はといっても欧米諸国はといっても発展を続ける中にも資本社会の末期症状たるネオリベ現象は起きていて露骨な格差拡大と階級化に苦しんでいるのです。そんな社会事情を反映すれば未来世界は当然ながらデストピアになります。この作品では火星が開拓され楽園のような世界になっているが、そこには一部の上級国民しか住めず、ほとんどの下級国民は汚染された地球か宇宙船で危険な奴隷労働に明け暮れる生活を強いられています。そして火星に楽園を作ったブルジョワ層は下級国民の事など屁とも思わない。ここら辺の意識が正に今のネオリベと同じで優性思想的です。

 

タイトルにある通り主人公たちは宇宙ゴミの掃除屋な訳だが荒くれ者のゴロツキ集団なので、やってる事はほとんど宇宙海賊です。そんな彼らが偶然拾ったのは人間型爆弾として指名手配されてる少女。彼女の身柄は兵器としてテロリストに高く売れると取引を試みるが、その裏にはブルジョワ層の陰謀があった。まあ分かり易く支配層を悪役に据えた勧善懲悪の王道で、CGもアクションも満載なノンストップエンタメ大作に仕上がってる訳だが、あまりに爽快過ぎて疑似親子的な人間ドラマの部分がイマイチ刺さりませんでした。その意味ではソンヒ作品は現在の非凡な才能を多く抱える韓国映画界の中においては凡庸です。そもそも階級社会って設定自体が勧善懲悪で解決できる問題ではないから。ただ振り返ってみると一世紀前のサイレント時代にロシアで撮られたSF『アリエータ』では火星人が社会主義革命を起こしているしフィリッツラングの『メトロポリス』ではブルジョワとプロレタリアの和解が描かれます。この手のデストピア設定をエンタメに落とし込む傑作は遥か昔から作られている。それだけ現在の社会的腐敗が世界大戦前夜に酷似しているという事実には絶望しかない。なぜなら歴史に学ばない人類の知性の退化を感じるから。この手のジャンルには確かに傑作もある訳だが、この作品に関しては単に良くできているSFエンタメという程度でした。