2006-10-19の投稿
ワールド・トレード・センター
RISE
酷い陰謀、暗い太陽が昇ろうとしてる
だが、この嵐もやがて過ぎ去るだろう
家は焼かれ、芝生には毒蛇
卑劣な報復、それも過ぎ去るだろう
過ぎ去って欲しいと祈る寂しい日
偽りと裏切りの果実を撃つ前に
何が真の問題なのか尋ねるべきだ
報いを受ける時が来たとは受け入れ辛い
後味の悪さはなかなか消えない
王国を来たらしめ給え
どうにか生き延びる寂しい日
大丈夫、大丈夫、大丈夫…
byブルーススプリングスティーン
あの日私は四国ロケから帰ったばかりで歌舞伎町のマックにいた知人があの火災の煙を見たなんて話を肴に呑んでいた。突然飛び込んだ映像に大して関心も持っていなかった。ざまみろ自業自得だ程度にしか思わなかった。その後"RISING"ってアルバムを聴いたら何故か胸に迫るものがあった。この作品にもその感覚に近いものを感じる。マネーゲームを行う資本家や人殺しを商売にする軍人なんて鬼畜どもはいくら死んでも屁とも思わないが、そんな事情を何も知らないプロレタリア層だって犠牲になっている。これはあくまでも彼らの物語。強欲な国家という大きな悪とテロリストという小さな悪の争いなんて知ったこっちゃない。彼らにとって天災みたいなもの。空論にすら聞こえる国際力学の根底には、実際に被害を受けても人間らしく黙して回復だけを望み忘れ去ろうとする善良なる労働者の犠牲がある。
この物語のキーになる海兵隊員の善意や活躍を見ると報復肯定なのかとの誤解も起きそうだが、彼の行動は『ランドオブプレンティ』の主人公みたいな不器用さ故に従順な犬であり続ける事への皮肉にも思える。アフガンではなくイラクだし。任務で命を殺める。個人的には命を救う。公より個に人間らしい善意が見出せる。オリバーストーン個人の世代を感じる。マスコミを扱った『サルバドル』『トークレディオ』『ナチュラルボーンキラーズ』等を見ると社会派に見えない事もないが、どちらかと云えば革命熱に憑かれた作家。繊細に個人を描く事こそプロレタリア映画としての力を高める。ケータイを忘れ赤信号で車を捨て家まで歩こうとする妻。ヒステリックに母を罵る息子。心配する気持ちが不器用にぶつかり合う。人は弱い。いかに歯車を狂わされ辛い思いをしても何も出来ない。それも大切な訴え。まるで『戸田部落』や『不知火海』みたいに静かな訴え。