2013-03-21の投稿
ライフ・オブ・パイ
トラと漂流した227日
現実逃避
最初に思い浮かんだのは自主規制という言葉でした。
つまり辛すぎる現実に対して少年は虚構で脚色し
ショッキングな描写を自主規制した
ファンタジックな話を語るという内容で
動物同士の殺し合いも、あえてオフスクリーン。
市場の規制でもアン・リーの作風でもなく
少年の虚構を語っているから、このような描写。
アン・リー作品は『ウェディング・バンケット』で感動して以来
ほとんど見ている訳だが、あまり普段から
娯楽性が高い作品を撮るという訳でもなく
『推手』や『アイス・ストーム』などのように
丁寧だが淡々としている作風がほとんどです。
もう一つの特徴は論旨が安定しないという点。
寓話的なメッセージ性を語らないタイプの作風。
亡くなる直前のベルイマンを彼が訪ねたという記事を
スウェーデンの雑誌で見かけたが、作風は彼と逆。
多義性がサブジェクトにインパクトを持たせる作品は
40年代イタリアのネオレアレズモの作品群にも
30年代中国の上海派(特にツァイ・チューション)にも
日本の熊井啓やフランスのコスタ・ガヴラスなどの社会派作品にもあり
この作品のオチの語り口にも、それと似たインパクトを覚えました。
バカ丁寧である事、サブジェクトだけを提示する事など
普通は娯楽性を下げる要素が逆に娯楽性を上げたという意味では
「よくやった!」と褒めてあげたい作品でした。
