『ドッグバイトドッグ』の感想from映画生活 | アキラの映画感想日記

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映画を通した社会批判

2013-09-15の投稿

ドッグ・バイト・ドッグ

 

 

死と誕生

 

暴力。どこまでも暴力。嫌気がさすような。吐き気がするような。焦燥と乾き。凶暴で獰猛。獣のような子供たち。マフィアに飼い馴らされた孤児たち。生きるために人を殺す。いとも容易く人を殺す。まるで梁石日を思い起こさせるようなアジア残酷物語とでも呼ぶべき陰惨な世界観は同監督の『軍鶏』とも共通している。タイから送り込まれた暗殺者。生きる為に闘技場で仲間と殺し合っていた凶暴な獣。彼を追う刑事は尊敬していた父の汚職を知り自暴自棄になった凶暴な獣。失うものなど何もない。ただ殺し合うだけ。だがゴミ溜めの中で殺し屋は出会ってしまう。自分と同じように虐げられ、自分を愛してくれる唯一の女性に。

 

私が初めてソイチェンの作品を見たのはフィルメックス。作品は後に『アクシデント』として公開されるが、その時のタイトルは原題通り"意外"だった。事故に見せかけてターゲットを殺す暗殺集団のボスが疑心暗鬼に陥るという話で、その神経質なボスをルイスクーが演じる。この役者はいかにも神経質そうな線が細い感じで上手いキャスティング。今回の刑事役サムリーも、いかにもガリガリな闘争本能丸出しな感じでピッタリ。だがどちらかというと殺し屋役エディソンチャンよりも彼の方がタイ人に見えてしまう。彼の作品は娯楽としては上手いとは言い難い。台詞に依存し過ぎないで極力絵で見せようとする割に乱暴なカッティングや見辛い構図など舌っ足らずな表現が多く見受けられる。だが、だからこそ凶暴さが冴える。この作品も本能のままに炸裂する暴力への強い嫌悪感が生まれるような救いのない見せ方。そのおかげか、ひとりの女に心を開き、必死で生きようとする殺し屋の姿が開放的な空気感で描かれる後半には強く心を打たれるのだ。そしてラストは奇跡的。意外な所で傑作に出会えた。