『雨の味』の感想from映画生活 | アキラの映画感想日記

アキラの映画感想日記

映画を通した社会批判

2007-11-13の投稿

雨の味

 

 

虐待が生む妄想

 

アジアは世界中で最も映画が大量生産されている。インドと日本は特に多く、合わせると米国を越える。それ以外にも中国やモンゴルや中央アジアや東南アジアの国々は旧ソ連の芸術政策も手伝って個々にしっかりとした映画文化が育っている。そんなアジアにおいてもほとんど映画が製作されない国もある。例えばこのシンガポール映画。香港に追随するようにTV市場は開けた国ではあるが、20世紀末まで映画文化はほとんどない。製作本数は微増を続け最近やっと年に5,6本のペースで製作されるようになった。今も微増し続けているらしい。製作される映画の9割は英語でごくたまに中国語の作品もある。これは数少ない中国語作品。

 

心に傷を負った物同志の出会いのドラマ。楽器屋に勤め団地に住む青年。一日は10時間で充分だと主張する変わり者。だから夜眠れない事も多い。そんな夜は団地内を徘徊し使えそうなゴミを拾う。ある夜、彼が徘徊してると同い年位の少女が声をかける。彼女も変わり者のようだ。その時以来、青年は彼女の事が頭を離れない。二人は両思い。だが子供の頃に両親に捨てられた彼は、その時のトラウマから愛する者に裏切られる事を極度に怖れる。彼女は彼に積極的にアプローチするが、彼は踏み込めずにいる。そんな時、彼女もまた父親に虐待を受けている事を知る。彼女は彼の元に逃げ込もうとするが彼の態度は曖昧。

 

よく親から虐待を受けた子供の多くは現実から逃れる為にもう一人の人格を作り出し自分を客観的に眺めるなんて話を聞く。この物語でも、そうやって作り出した妄想の人物が登場します。それが誰かは見てのお楽しみ。監督は日本映画に影響を受けたと聞いた渡辺利夫氏がタイトルセンスから察したのか安直に小津映画ではないかと語っていたが、それっぽいショットは釣りのシーン位しかない。むしろ実際に見た印象はコミック文化の影響が強い最近の世代。冒頭の団地をかじった雲のショットからして日本のマンガ的センス。PFFでデビューした新人や『JamFilm』に集まったヒットメーカーたちの傾向を臭わせる。話自体は上手くまとまっていたが、沈黙やナレーションが無駄に多く訴えかけるエネルギーが弱かった。

 

みんなの広場にてNHKアジア映画祭