『帰郷』の感想from映画生活 | アキラの映画感想日記

アキラの映画感想日記

映画を通した社会批判

2007-11-01の投稿

帰郷

 

 

情けない人種

 

「もしお前が死んだら故郷までおぶって帰ってやる」そんな風に笑い合った相棒がアル中でくたばる。彼らは出稼ぎ労働者の呑み仲間。彼の故郷に電話してみたものの連絡がつかない。そんな訳で都会の工業地帯から故郷までの長い道のりを死体を背負って歩くハメになる。その道中で出会う様々な人との交流に地方の昔ながらの人情と現代中国の問題が様々な絡みながら展開するロードムービー。

 

チーチインで進行役が今回は新しく社会派の切り口を見せたなんて云ってたけど、作品を見る限りはこれまで通りのチャンヤン作品。現代とノスタルジーって主軸はズレていない。ただ今回はロードムービーであるが故に今までも背景として描き込んでいた社会的変化が拡散したって所だろうか。長江ダムも闇献血も偽札も出て来るが、総じて古き良き人民の心から失われた何かを語ろうとしているって所はこれまでと一緒。旅の中で主人公は地方の様々な事情を抱えた人々に助けられるが、私欲に生きる現代人にはそんな情を持ち合わせない情けない人種もいる。

 

冒頭のバスに乗り合わせた乗客は強盗犯にも劣る。主人公の告白のおかげで助かっておきながら死体を乗せた事が分かった途端、礼も云わずに感染症を怖れてバスから主人公を叩き出す。何て身勝手な利己主義集団。都会人として恥ずかしい。それに比べ、地方に暮らす人々は温かい。この語り口は『こころの湯』で見せた味気ない都会と故郷の対比と同じ。チャンヤン自身は社会的視野を広く語ろうと試みたと云っていたが、やっている事は変わらない。むしろ彼の語り口は一ヶ所をじっくりと描く事で味が出るので、今回は今までに比べて薄味になってしまった。

 

六本木にて東京国際映画祭