『君と別れて』の感想from映画生活 | アキラの映画感想日記

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映画を通した社会批判

2006-01-12の投稿

君と別れて

 

 

そうだ海へ行こう

 

ジムブラドックが失業しキングコングがエンパイアステイトビルに登っていた頃(大猿はフィクションだけど)日本では成瀬巳喜男がこんな作品を撮っていました。舞台は京都だろうか。もし記憶違いでなければ列車が走る周囲の情景は、いつか旅行の際に東海道線の窓から見えた場所と同じロケーションだったかもしれない。芸者を生業にする母。そんな家庭に育った息子はひねくれ始め、学校をサボって不良グループの仲間に入る。そんな腐っている彼に声をかけたのは母の後輩芸者。「これから兄弟に会いに実家に帰るけど一緒に来る?海が見えてとても良い所よ」彼女の行為は実に賢明です。その程度の事をウジウジ悩んでいても埒があかない。母が水商売をしている事くらい彼女の不幸な境遇に比べれば大した事はなかった。

 

成瀬作品の多くは監督ではなく人物が必要以上に思い詰めちゃっている訳だけど、そんな特徴はこの頃から既に出ています。ただ、まだこの頃はさわやかさがある。芸者の家で出会う幼い弟のエピソードなんて、まるで人情喜劇みたいに思えます。母の父への愛憎、息子の母を思いやる愛情と反抗、芸者の妹を守ろうとする思い。その先には明確な行動がある。ポジティヴな行動でなくても道を開こうとしてる。良かれ悪かれ、ただドンヨリと重く思い詰めても状況は何も変わらないのだから。特に母と息子のエピソードに関しては晴々している。何やらウジウジ思い詰めて何もしてない自分に気付いたらJRのCM風に「そうだ海へ行こう」と呟いてみよう。