『わが故郷の歌』の感想from映画生活 | アキラの映画感想日記

アキラの映画感想日記

映画を通した社会批判

2006-05-27の投稿

わが故郷の歌

 

 

チャドルに隠れた痛み

 

舞台はまたしてもクルディスタン。時代設定はイランイラク戦争直後。ジャリリの『スプリング春~へ』で描かれた時期と繋がる。国境は前作と同じ場所で撮っているのだろうか。人物だけがソックリ入れ替わった印象を受けた。難民となった身内を探してイラン側からイラク側へとミュージシャン一家である父兄弟の男三人の珍道中を描いたロードムービー。他の作品同様に活力的で愉快なキャラ満載だが、今作は特に単なるコメディには終っていない。

 

バルマクの『ストレンジャー』でも描かれていた妻となる女性は人前で歌ってはいけないって厳格なムスリムの価値観に対して新しい世代には欧米的なウーマンリブが浸透している。ゴバディ作品を見る限り神道も仏教もごちゃ混ぜにする我々日本人と同様にクルド人の宗教的伝統への拘りはあまり強くないみたい。信念よりも生活が大切だ。ただ悪い噂を回避する所を見ると生活の為のコミュニティだけは軽視してない。

 

他のゴバディ作品は傷口をさらしながらも活力に満ちた印象があるけれど、これはもっと根暗でネガティヴな印象を受ける。主人公が子供ではなく老いているせいもあるが、何よりも傷口を隠す事でより痛々しさを増している。チャドルに隠された共有できない苦悩。心の痛みを分かち合えない女性のプライドという薄皮一枚のジレンマ。思いやりのヴェールに包まれた痛みが強烈に印象に残る。