『暗殺・リトビネンコ事件』の感想from映画生活 | アキラの映画感想日記

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映画を通した社会批判

2008年02-07の投稿
暗殺・リトビネンコ事件

 

 

プーチン帝国


「ロシア人には隷属的な気質がある」と仏国の哲学者グリュクスマンは語る。確かに『イワン雷帝』にも描かれている通り、広大なロシアの大地で様々な勢力からの多重搾取に苦しんだ労働者たちは富農や貴族を統一するロシア皇帝の登場を望み従った歴史があります。ロシアという巨大な秩序に美徳を感じ憧れ従い続けた気質は腐敗が明るみに出た所で簡単には変わりません。彼らにとっての自由の意味は我々の想像では計り切れない所があります。昔からプーチンに関しては旧ソ連時代のKGBやらマフィアとの繋がりが囁かれる一方で、ロシアみたいな大国はある程度ダーティな面を知る指導者でなければ操りきれないのだろうと諸外国からも認識されています。ゴルビーは旧体制を解体しエリツィンは資本化を押し進めた事で表面的にはロシアは民主化されたようにも見えますが社会主義の崩壊が帝国の崩壊ではありません。この広大な国土が持つ資質は帝国を必要としています。むしろ自由競争が持ち込まれた事により秩序が乱れ、より強大な圧力による統制で政権管理せねばならない。思想が変わっても危険な存在には変わりありません。


時々耳にするロシアに関する不可解な報道。それらの裏側を今は亡きリトビネンコ氏の見解で繋ぎ合わせるかのような内容。インタビューをベースに関係者の証言やニュース映像を挿入した構造のドキュメント。大国の首相を糾弾するって意味じゃロシア版『華氏911』と呼べるかもしれない。ただこれは良くも悪くもムーア作品みたいなドキュバライティではなく、リトビネンコという人物を軸にした正当法で語られています。チェチェン紛争の原因となったテロ事件は実は政府側に仕組まれていたとかセンセーショナルな証言が続々と飛び出すインタビュー内容には引き込まれますが、それらの疑惑に関しては取材対象者が偏っていて裏取り(関係者への周辺取材)が甘く、語り口としては多少強引。ただ、リトビネンコ個人の描き方としては適切に裏が取れていて悪くない。あくまでもドキュメントとしての面白味を感じたのは彼の個人史の方でした。