脂肪の流れを知って、夢の部分やせ
体内の脂肪の流れは、脂肪細胞を中心に考えると理解しやすい。
脂肪細胞が、飢餓に備えてエネルギーを蓄えておくための貯蔵庫だということは前回で説明したが、中性脂肪をただ、ためっ放しにしているわけではない。
脂肪細胞には、中性脂肪をためる「蓄積モード」と、中性脂肪をはきだす「ダイエットモード」があり、食事を食べたときは「蓄積モード」、運動時など、食べたカロリーより使うカロリーが多いときは「ダイエットモード」になる。必要に応じて、この二つのモードがスムーズに切り替わるというのが、脂肪細胞の健全な姿だ。
「蓄積モード」に深くかかわるホルモンが、インスリン。インスリンといえば、血糖値を下げる働きのあるホルモンだと記憶している人も多いだろうが、実は、血液中を流れる脂肪分を中性脂肪の形にして脂肪細胞にためるという役割も担っている。
血液中の脂肪分は、“運び屋”としてのたんぱく質がくっついた形で流れている。この脂肪分には、食事でとった油分だけでなく、使われずに余った糖分やたんぱく質が肝臓で脂肪の形に作り変えられたものも含まれる。
食べた油が脂肪として流れているのはわかりやすい話だが、糖やたんぱく質までが脂肪になるのはなぜなのか。「同じ重さで比べた場合に、脂肪はたんぱく質や糖に比べて2倍のカロリー密度を持つ。エネルギー源として貯蔵するためには、脂肪の形にしておくのが最も省スペースですみ、効率がいい」と、東京農業大学の田中教授は説明する。
ちなみに、自律神経でいうと、蓄積モードになりやすいのは、副交感神経が働いてリラックスしているとき。「だから、食べた直後に横になると太ると言われているんです。その方が消化・吸収が進むので、胃腸に負担をかけないためにはいいんですけどね」(田中教授)。
ダイエットモードに傾くのは、交感神経が優位になったとき
「ダイエットモード」では、脂肪細胞にたまっていた中性脂肪が分解され、「遊離脂肪酸」として血液中に放り出される。最終的には、この遊離脂肪酸が、体の主な脂肪燃焼器官である筋肉や肝臓に届けられ、そこで代謝されて、活動エネルギーであるATP(アデノシン3リン酸)などが作られる。
ダイエットモードに傾くのは、交感神経が優位になったとき。その際、中性脂肪を分解して遊離脂肪酸として取り出すのに大きな役割を果たすホルモンがアドレナリンだ。アドレナリンは、体を動かしたり、大きなストレスを受けたときなどに分泌される。「だからダイエットには運動が大事、というわけです」(田中教授)。
ただし、運動してもすぐにぜい肉が落ちるわけでも、体重が減るわけでもない。これは、脂肪細胞の中の中性脂肪が外に出てから、実際に脂肪細胞のサイズが小さくなるまでにはタイムラグがあるためだという。
中性脂肪が出て中に空洞ができると、そこに、細胞の外から水が入りこんでくるため、細胞の大きさも重さもすぐには変わらない。この水は、約1週間ほど細胞内にとどまる。水が抜けると、ようやく細胞が引き締まり、サイズが落ちる、という流れだ。
「1週間たったらどーんと体重が減り始めるのだから、すぐに結果がでないといってあきらめないこと」と、京都市立病院の吉田俊秀部長はアドバイスする。
こうしたダイエットモードの流れを踏まえた、効果抜群の部分やせ方法を吉田部長に教えてもらった。40℃のお湯に胸の下までつかりながら、二の腕やお腹など、気になる部分のぜい肉を10分間もむという方法だ。
「もむことが刺激になってアドレナリンが出るため、もんだ部分の中性脂肪が遊離脂肪酸に分解されやすい」と吉田部長。さらに、お風呂タイムは体が温まって血流がよくなるため、遊離脂肪酸が、脂肪燃焼器官である筋肉や肝臓に届きやすい。
しかも、この方法なら、全身がやせるわけではないので、バストなど、残したい部分の脂肪まで落ちる心配もない。「実際、肥満外来で指導している女性の患者さんでも、この方法でメリハリのある体つきになった人は多い」と吉田部長は太鼓判を押す。
日経ヘルス 2009年6月号掲載記事を転載
この記事は雑誌記事執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります



