山梨県河口湖大石公園

舟木一夫~2024年コンサート曲㉓

湖 愁

―後半に第9回「オードリー」の話も―

 

 

 本題に入る前に―。「玄鳥至」は「つばめきたる」と読みます。七十二候の一つ。二十四節気の「清明」の初候にあたり、4月5日から4月9日ごろに相当します。玄鳥とは「黒い鳥」という意味で、ツバメ(燕)の別名。陽気も暖かくなって南のインドネシアやフィリピン、オーストラリアなどで越冬していたツバメが敵に見つからないように一羽ずつ、時速50~60キロで海面すれすれに飛んで再び飛来します。「玄鳥至」はそういう意味です。そして、飛来したツバメは泥と枯草に唾液を混ぜた巣を作り、産卵や子育てに供えます。かつてはツバメの巣作りをあちこちで見たものですが…。

 

 

 

湖愁

 

 舟木一夫さんが2024年通常コンサートの23曲目に選んだのは、松島アキラさんのデビュー曲を“舟木バージョン”として新録音し2022年12月7日にリリースした「湖愁」(作詞・宮川哲夫、作曲・渡久地政信)でした。舟木さんにとっては、デビュー曲「高校三年生」へと導いてくれた、ある意味では自らのデビュー曲より大切な歌ということになります。「この歌を口ずさむとき、17歳の想いが溢れる」とも言われましたが、今では完全に“舟木一夫の歌”になっています。

 

 

 舟木さんが公の場で初めて「湖愁」を歌ったのは1962年2月、CBC(中部日本放送)の人気のど自慢番組「歌のチャンピオン」でした。父・栄吉さんに歌手になることを反対されながら、学校をズル休みして出演しました。17歳、高校2年生。テレビ出演前の予選で平野こうじさんの「白い花のブルース」、初めてのテレビ出演で佐川ミツオ(のちに満男)さんの「この涙誰が知る」を歌い、勝ち抜いた後のチャンピオン大会で「湖愁」を歌って優勝しました。

 

松島アキラ「湖愁/半かけお月さん」【EP】

 

 舟木さんはテレビに出ることを9番目の母・節さんだけに知らせていましたが、栄吉さんは出先で仕事中にたまたまテレビで歌う息子を発見。風邪で学校を休んでいた担任教諭も自宅のテレビで見ていて仰天しました。舟木さんは栄吉さんらから大目玉をくらいましたが、節さんは夫に「あまり叱らないほうがいいですよ。好きなことは仕方ないですからね」と宥めました。舟木さんはこの優勝を契機にプロ歌手への想いを一層強くしました。

 

 そして、翌月。ガールフレンドに振られてチケットがあるという友人に誘われて名古屋のジャズ喫茶に松島アキラショーを観に行きました。ショーの最後に用意されていた松島さんと一緒に歌うコーナーに選ばれて、本人の前で「湖愁」を歌いました。これが松島さんの取材で東京から来ていた週刊明星の記者・恒村嗣郎さんの目に留まり、ホリプロの社長・堀威夫さんを通じてコロムビアの専属作曲家・遠藤実さんのレッスンを受けることになりました。

 

 コロムビアの歌手になるためにはオーディションを受けなくてはなりません。当日、舟木さんは山田真二さんの「哀愁の街に霧が降る」、平野こうじさんの「白い花のブルース」とともに「湖愁」を歌いました。いずれもビクターの歌手の歌でした。ピアノを弾いていた作曲家の山路進一さんは「1曲ぐらいはコロムビアの歌手の歌を歌うもんだけどね…。君は面白いね」と舟木さんに伝えました。いずれも17歳の上田成幸少年時代の話です。

 

 脱線しますが、舟木さんは平野こうじさんの「白い花のブルース」(作詞・佐伯孝夫、作曲・𠮷田正)もお好きだったんですね。この頃、よく歌っておられます。♪想いをこめて 白い花 投げれば受けよ あの胸に 落ちたら 可愛い ブローチに なっておくれ 白い花…。平野さんはこの歌で1961年の第3回日本レコード大賞の新人奨励賞(他に「川は流れる」の仲宗根美樹さん、「湖愁」の松島アキラさんら)と作詞賞を受賞しています。その後の活躍は調べても、よく分かりませんでした。

 

 ともあれ、舟木さんの17歳は「湖愁」に明けて「湖愁」に暮れたと言ってもいいと思います。舟木さんは「偶然に偶然が重なった」と言われますが、自ら切り開いて偶然を必然にして掴んだ歌手―という表現の方が当たっていると思います。舟木さんは“寒い時代”を潜り抜け復活した後は、自分の納得できる歌だけを新曲としてリリースしてきました。コロムビアとしては“周年曲”を出したかったと思いますが、そこは舟木さんに理解を示してこられたんではないでしょうか。

 

 「湖愁」を新しいアレンジで新曲としてリリースしたのは、2018年7月4日に「『その人は昔』のテーマ」以来4年ぶりでした。舟木さんは「4年かかっている」と言いましたが、17歳の“あの時”から60年の歳月が流れています。「60年かかっている」というのが実感でしょう。それだけの重みがあります。そして、2022年12月末に東京・新橋演舞場で開いたロングコンサートで「新曲として『湖愁』を歌ったことで、60年から先の一歩を踏み出せそうです」と会場のお客さんに力強く語りかけました。

 

   その後の舟木さんを見ると、とりわけ78歳以降のコンサートは、ご本人が「吹っ切れた!」とおっしゃるように、“今が一番”と思える歌唱をされていると感じるのは私だけではないと思います。

 

 

 

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第9回も観てしまいました

 

 美月(岸由紀子)は撮影所内でクリキン(舟木一夫)から手品を見せてもらったりで大喜び。君江(藤山直美)と一緒に「椿屋」に戻った美月は、愛子(賀来千香子)や滝乃(大竹しのぶ)らに、キリンやクマがいる“動物園”で楽しく遊んだことを話し、明るい笑顔で明日から幼稚園に行くと言う。

 

 美月は幼稚園でクリキンから教わった、一つの花を二つにする手品を見せ、皆から「教えて、教えて!!」と言われるなど楽しく過ごす。先生たちも胸をなでおろすが、帰り際に春夫(段田安則)が現れ、皆の前でフラフープを回し、オードリーと呼ぶ。

 

 美月はまた春夫を拒絶する。愛子が「パパは偉いんだよ」などと美月に説明するが、画面には「昭和39年、夏」の文字。最後に「パパと何年も口をきかなくなったし、英語も話さなくなった」と岡本綾のナレーションが入る。

 

 

 

 

 

 

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☆青春賛歌 目次【2】2023年1月~

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