長野県 蓼科高原

 

舟木一夫~2024年コンサート曲㉒

高原のお嬢さん

―後半に「オードリー」でクリキンと美月の初会話―

 

 

   本題に入る前に―。桜の花が散る様子を形容する言葉に「花吹雪」「桜吹雪」「飛花」「落花」「こぼれ桜」などがあります。「残桜」は散り残っている桜、遅咲きで春が過ぎても咲いている桜です。1979年に作られた鶴田浩二さんの曲に「散る桜残る桜も散る桜」(作詞・曾我部博士、作曲・市川昭介)という軍歌があります。太平洋戦争末期に特攻隊員が遺書に書き残したものですが、もとは良寛和尚の辞世の句です。今まさに命が燃え尽きようとしている時、たとえ命が長らえたところで、それもまた散りゆく命に変わりはないという意味。また、「花筏(はないかだ)」は、散った桜の花びらが水面に浮かぶ様子を筏に見立てた言葉で、晩春の季語にもなっています。青森・弘前公園外堀の「花筏」は“世界の絶景”にも選ばれているほどです。

 

弘前公園 二羽の鴨と花筏

 

 

 

 舟木一夫さんが2024年通常コンサートの22曲目に選んだのは、1965年10月にリリースした「高原のお嬢さん」(作詞・関沢新一、作編曲・松尾健司)でした。作曲の松尾さんはコロムビアで主に編曲を担当していましたので、舟木さんの作品で作曲したのは他に「高原のお嬢さん」のB面の「夏の日の若い恋」や「渚のお嬢さん/月とヨットと遠い人」、「北国の旅情」など限られています。舟木さんは京都・南座でのシアターコンサート(4月5日から7日)では「高原のお嬢さん」をアンコール曲にしました。

 

鴨川から望む南座

 

 作詞の関沢さんは最初は映画の助監督、脚本家としてデビューした後、作詞家の活動を始めました。舟木さんの曲では「高原のお嬢さんの」B面の他、「学園広場

/只今授業中」「叱られたんだね/初恋の駅」「夢のハワイで盆踊り」「おみこし野郎」「渚のお嬢さん/月とヨットと遠い人」「やなぎ小唄」「銭形平次」「太陽にヤァ!」「一心太助江戸っ子祭り/淋しかないさ」「幸せよ急げ」を書いています。美空ひばりさんの「柔」、都はるみさんの「涙の連絡船」なども手がけています。

 

 

 関沢さんは最初、「高原のお嬢さん」の歌詞で♪リーフ リーフとある所を、♪リーブス リーブスとしていました。夏が過ぎて散っていく落葉は1枚だけでないので、複数形が正しいのですが、舟木さんが実際に歌ってみると「ブス」が強調されるため、舟木さんの指摘で単数形の「リーフ」に直されました。舟木さんはこの歌を1965年大晦日の第16回NHK紅白歌合戦で歌いますが、白組司会者の宮田輝さんから「トップバッターがホームランをかっ飛ばします」と紹介されて登場しました。

 

第16回NHK紅白歌合戦 NHKアーカイブスより

 

 私はその光景を今でも明瞭に覚えています。舟木さんは、軽快なイントロに乗ってステージ中央の階段を颯爽と駆け降りてきます。21歳の若さを強調するかのような明るい色のタキシード姿でした。デビュー半年で初出場した3年前の紅白は「高校三年生」で詰襟の学生服、大河ドラマ「赤穂浪士」に矢頭右衛門七役で出演した前年は「右衛門七討入り」で討ち入り装束でしたから、紅白の視聴者に初めて“大人の舟木”としてトップバッターに相応しい歌声と衣装を届けることになりました。

 

 舟木さんが「この歌で片足が地に着いた感じがした」という「高原のお嬢さん」はその後、いろいろアレンジを変えるとともに、舟木さん自身が新たに4番を作詞するなど“成長”してきました。舟木さんがいかに大切にしている曲であるかを物語っています。2023年3月末に東京・新橋演舞場のシアターコンサートのラストに歌った「高原のお嬢さん」は、私が一番か二番の出来だと思うバラード・バージョンでしたが、先日の南座のアンコールでのロック・バージョンもなかなか聴かせましたね。

 

 

 この歌も1965年12月4日に日活映画「高原のお嬢さん」(柳瀬観監督)として公開され、舟木さんは蓼科高原で牧草研究に没頭する青年、共演の和泉雅子さんは避暑のために別荘を訪れる都会の“お嬢さん”を演じました。舟木さんは映画としても“ちゃんと頑張らねばと思った作品”と語っています。この映画には他に舟木さんの盟友の一人だった山内賢さん、西尾三枝子さん、堺正章さんらが共演していますが、舟木さんは「マコちゃんとの本格的なコンビが確立した映画」とも話しています。

 

 

 舟木さんが「虫歯で左のほっぺがかなり腫れ、右側からしか撮れない状態でした」という新宿駅でのラストシーンを改めてDVDで観ましたら、確かに腫れているのが分かり不自然な撮影になっています。当時の舟木さんには腫れが引いてから…という余裕はなかったんですね。また、余談ですが、和泉雅子さんは以前、デザイナーの森英恵さんが当時、日活の衣装部で映画の衣装のデザインの仕事をしていて、この映画の衣装もすべて森さんのデザインではないかと話していました。

 

U-NEXT動画配信より

 

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クリキンと美月の初会話

 

 岸由紀子さん演じる主人公の佐々木美月が幼稚園で「オードリー」と呼ばれることが嫌で行きたくないとごねるため、大竹しのぶさん演じる「椿屋」の女主人・吉岡滝乃が幼稚園を一週間休ませます。心配した藤山直美さん演じる「椿屋」の下働き・宮本君江が美月を元気づけようと大京映画のオープンセットに連れて行きます。

 

 君江が突然エキストラを頼まれて撮影に参加して美月から目を離したすきに、美月は珍しい景色のセット内を歩き回り、椅子に座ってスタートがかかるのを待っていた舟木一夫さん演じる時代劇役者・クリキンこと栗部金太郎と出会います。不思議そうに見ていた美月と目が合ったクリキンが呼び寄せます。

 

 クリキン  いくつ?

   美月    (片手で示しながら)5つぅ

 クリキン  ふーん。おいちゃんは18だ

 美月    怪訝な顔をする

 クリキン  18に見えないか?

   美月    見えへん

 クリキン  本当は49だ

 周囲の侍  それもサバを読んでいると注意しようと乗り出すが…

 クリキン  名前は?

   美月    知らない人に言うたらあかんて、お母ちゃまが…

 クリキン  おいちゃんはクリキンというんだ

 美月    キリンさんみたいや

  

 

 この後、クリキンが美月に手品を見せると、美月は「もういっぺんやって」と夢中になります。佐々木蔵之介演じる新人スター・幹幸太郎を追っかけているうち、やっと美月がいないことに気づいた君江は撮影所を探し回ります。

 

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