舟木一夫と光本幸子㊦

舟木一夫と光本幸子㊦

　東京・日本橋浜町の明治座での公演を始めた時、舟木一夫さんは中学生時代に観た市川雷蔵主演の大映映画「薄桜記」(監督・森一生、原作・五味康祐、1959年11月23日公開)を思い出し、何とか舞台化したいという強い願望がありました。原作は1958年7月から1959年4月まで、産経新聞夕刊に連載されたもので、高田馬場の決闘や赤穂浪士による吉良邸討ち入りを背景に、2人の剣士・丹下典膳(市川雷蔵)と堀部安兵衛(勝新太郎)の友情などを描いています。

　舟木さんは舞台化することに気乗り薄だった脚本家の土橋成男さんを説き伏せて「忠臣蔵異聞・薄桜記」として1971年8月に明治座の舞台に乗せました。舟木さんは五味さんに了解を取るため、光本幸子さんと共に東京・練馬の自宅を訪ねました。五味さんは「俺が君たちに会ったということはOKということだよ」。そして、ゲネプロ(通し稽古)を見た感想は「俺が書いたものとは全然違うな。しかし、これはこれで面白い」でした。いかにも五味さんらしい。

毎日新聞社「毎日グラフ（1954年9月1日号）」より。

　舟木さんと明治座と言えば、忘れてならない出来事が2つあります。

　1つは1972年8月の公演「大岡政談・魔像」「あの海の果て」の時です。舟木さんはこの年4月7日に自殺未遂騒動を起こし、29日には伊志井寛さんが71歳で亡くなっています。そんなこともあって、舟木さんは役作りのために断髪したうえ、楽日まで連日楽屋に泊まり込んで臨みました。しかし、1か月公演も後半になると観客が減り続け、舟木さんがメドにしていた7割ギリギリになっていました。公演後、舟木さんは明治座に「来年で一区切りさせてください」と申し入れました。

　もう1つは明治座公演の2年目。千穐楽の2日前に村上元三さんに電話して「疲れちゃいましたので、千穐楽は無茶苦茶楽しんでもいいですか」と聞くと、村上さんは「おお、やれやれ」となり、舟木さんは台本を無視して突然アドリブで台詞を語ったり、奇異な行動をして共演者泣かせの“お遊び”を始めました。1幕目を見ていた村上さんの方から「二幕目は本物の酒を飲ませちゃえ」と言って来ました。この“お遊び”がその後の1か月公演の千穐楽に引き継がれることになりました。

　ところで、光本さんと舟木さんの関係で忘れてはならないのが、映画での共演と、2人でデュエット曲をリリースしていることです。

　映画はもちろん1969年12月17日に公開された松竹映画「いつか来るさよなら」(監督・川頭義郎、原作・笹沢左保)です。同名の主題歌(作詞&作曲・井上忠夫)は1969年12月に「北国にひとり」のB面としてリリースされています。また、デュエット曲「恋のお江戸の歌げんか」(作詞・西沢爽、作曲・山路進一)は「ああ桜田門!!」のB面恋のお江戸の歌げんかとして、1969年7月にリリースされました。

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　光本さんについて、和泉雅子さんが面白い話をしてくれました。1997年10月、光本さん、坂口良子さんと共演して名古屋の名鉄ホールで橋田寿賀子作、石井ふく子演出の「おんなの家」を上演しました。この公演で、光本さんがアリみたいに小さな字で書かれたカンニングペーパーのようなものを布巾に入れたり、あちこちに置いたりしていました。和泉さんは、ほんとは台詞を覚えているけれど、それがあると安心する長い習慣のお守りみたいなものじゃないかと思っていました。

　ある時、カウンター越しで演技する場面で、お弟子さんが長い台詞のペーパーを置いたものの、違うペーパーを置いたようで、光本さんは「あら、ないわ。違うわ」と言いいながら、それまで芝居にしました。姉妹げんかで動いていてペーパーが見えない場面があった時、光本さんの台詞が出てこないので、和泉さんが坂口さんに「言えーっ」とか言って無理やり言わせ、後でみんなで大笑いしました。そんなこともあって、光本さんは坂口さんらを誘って芝居後に熱心に稽古していたと言います。

第46回公演おんなの家パンフレット

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　光本さんは2013年2月22日、食道がんのため東京都台東区の病院で、前夫の阪口祐和さんらにみとられ眠るように亡くなりました。69歳でした。告別式は3月5日、東京都品川区の桐ケ谷斎場で営まれ、舟木さんや波乃久里子さんら約100人が参列しました。舟木さんとはお似合いで息もぴったりのいい女優さんでしたね。

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