舟木一夫と光本幸子㊤
1995年1月17日(火)午前5時46分52秒、阪神・淡路大震災が発生しました。M(マグニチュード)7.3、最大深度7で6434人が亡くなりました。政府は同年12月の閣議でこの日を「防災とボランティアの日」に制定しました。「おむすびの日」でもあります。人と人の心を結ぶ“おむすび”の意味も込められているということです。
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舟木一夫さんと光本幸子さんの話をします。
舟木さんは1967年4月4日から30日まで、東京では初めての1か月座長公演を日本橋浜町の明治座で行いました。22歳の時です。演目は昼の部が作&演出・村上元三の「維新の若人~新撰組~」と「ヒットパレード/春姿・花のステージ」、夜の部が作・川口松太郎、演出・戌井市郎の「春高楼の花の宴」と「ヒットパレード/星の広場に集まれ!」でした。
今考えると大変なことですが、舟木さんが若い頃は、1日にコンサートを3回行っていましたし、1か月公演のお芝居で昼夜の演目を変えるのも当たり前のように行われていました。舟木さんが芸能生活55周年記念として2017年12月に東京・新橋演舞場で行った「忠臣蔵」も「昼の部~花の巻、夜の部~雪の巻」という通し狂言にしましたが、何の抵抗もなくそうされたのだと思います。
舟木さんは明治座での座長公演が決まり相手役を考えていた時、たまたま見ていたNHKテレビの「大岡政談・池田大助捕物帳」に美濃役で出演中の光本幸子さんが目に留まりました。お美濃は江戸は両国の見世物小屋で軽業をやっていたところを、ある事件が縁で大助に助けられたのが縁で、南町奉行所の役宅に腰元として仕え、大助が難事件にぶつかると身の危険も顧みずにけなげに動くという役でした。
舟木さんは直感的に「この人だ!」と閃き交渉してもらった結果、GOサインが出ました。そう言えば、舟木さんが芸能生活50周年記念の曲を考えていた時も、何気なくテレビを見ていた時、三波春夫さんの「明日咲くつぼみに」がポッと出てきて、4小節を聞いた辺りで聴き入った。探していたものがここにあったということで、カバーしてリリースしています。
実は、舟木さんは1966年11月の大阪・新歌舞伎座での初座長公演で、“寄り合い所帯”のチームワークの難しさを体験したことを踏まえ、光本さんが所属していた劇団新派に「芝居の世界の行儀や礼儀を勉強したいので、新派で座組してその中に僕を放り込んでいただけないでしょうか?」と申し入れました。
劇団が紹介してくれたのが長老格の一人、伊志井寛さんだった。生粋の江戸っ子で、18歳の時に文楽の竹本津太夫の門に入り、27歳で新派劇に加入、48歳の時に劇団新派を結成していました。舟木さんはこの公演が縁で伊志井さんを“おやじさん”と慕い、公私ともどものお付き合いになっていきます。
関東大震災後に再建された当時の明治座
明治座公演は1973年まで7年連続で行われました。新派の出演者らとも阿吽の呼吸という関係になっていき、3年、4年と続けて行くうちに、周囲は“本物の役者・舟木一夫”として見るようになりました。作家の川口松太郎さんは「君の舞台姿はいいから若いうちに劇団に入ったらどうか」と声をかけられています。舟木さんの役者としての原点は明治座にありと言って間違いありません。
川口松太郎 サンケイグラフ』1954年8月 Wikipediaよりー
光本さんは1943年8月25日、東京都台東区生まれ。舟木さんより1歳年上ですが、舟木さんは“サッちゃん”と呼んでいました。子供の頃から舞踏家・六代目藤間勘十郎に師事し、12歳の時に明治座の舞台「望郷の歌」でデビュー。勘十郎と親交があった初代水谷八重子の目に留まって新派入りしました。その後、「なよたけ」(1967年、歌舞伎座)で市川新之助時代の十二代目市川團十郎と共演するなど、新派の中軸として
活躍しました。
舞台やテレビドラマの一方で、1969年8月に公開された渥美清さん主演の松竹映画「男はつらいよ」(監督・山田洋次)の第1作に初代マドンナ・坪内冬子役で出演して映画デビューしました。今から思うと、やはり大抜擢と言っていいんじゃないでしょうか。いずれにしても映画初出演で日本映画史にその名を刻むことになりました。26歳の時でした。私生活では明治座社長・阪口祐和さんと結婚して引退しましたが、1984年に舞台「陽暉楼」で女優復帰。28年後の2003年に離婚しています。
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舟木さんとは1967年4月に明治座で「維新の若人」「春高楼の花の宴」で共演して以来、舞台では、以下の表のように数多く共演しています。とりわけ、舟木さんが“寒い時代”から抜け出して、これからという時に復帰舞台の相手役をしたのが光本さんでした。
1967.4.4~30 明治座 「維新の若人」「春高楼の花の宴」
1967.6.14~25 御園座 「春高楼の花の宴」
1968.7.4~31 明治座 「坊ちゃん」「喧嘩鳶」
1968.8.9~20 御園座 「坊ちゃん」
1969.7.4~31 明治座 「新納鶴千代」「与次郎の青春」
1970.8.1~28 明治座 「新吾十番勝負」「荒城の月」
1971.8.1~28 明治座 「忠臣蔵異聞薄桜記」「新吾十番勝負―完結篇」
1972.8.1~28 明治座 「大岡政談・魔像」「あの海の果て」
1973.8.1~28 明治座 「沖田総司」「われ永久に緑なる」
1992.5.28~6.30 全国30会場 「銭形平次」
1993.7.30~8.24 全国12会場 「銭形平次」
1999.5.14~6.15 全国29会場 「沓掛時次郎」
1999.8.3~28 新橋演舞場 「忠臣蔵異聞 薄桜記」
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