舟木一夫と「成人の日」
~「成人のブルース」の思い出~
大変な幕開けになった辰年の2024年も、きのう7日(日)が「松の内」。七草粥は食されましたか。お正月飾りを外して“日常”に戻ります。きょう8日(月)は「成人の日」です。総務省によると、1月1日時点で2005年生まれの新成人(18歳)は106万人になりました。前年より6万人少なく、過去最少ということです。
「成人の日」と言えば、昔はNHKで「青年の主張」が放送され、舟木一夫さんも歌手としてステージに立ち「成人のブルース」を歌いました。この歌は舟木さんのデビュー3年目の1965年3月にリリースされています。舟木さん、20歳の時です。B面は「あの娘をまもろう」で、いずれも作詞・丘灯至夫、作曲・遠藤実の作品です。
「成人の日」は1948年に制定されて以来、1月15日に固定され祝日になっていましたが、2000年からハッピーマンデー法という余暇を増やすために作られた法律に基づいて1月の第2月曜日に変更されました。それから20年以上もたっていますが、長く「成人の日=15日」に慣れ親しんだ者にはいまだにしっくりしません。しかも、2022年4月から「成人」の対象年齢が20歳から18歳に引き下げられたものの、成人=20歳のイメージはなかなか払拭出来ません。
私たちの若い頃は、「成人の日」に東京・渋谷のNHKホールで行われた「NHK青年の主張全国コンクール」を午後の2時間、NHK総合テレビで結構熱心に観聴きしていたものです。「青年の主張」は地区コンクールで選抜された若者たちがこの日、一堂に会して、テーマに即した自らの抱負を語り競い合うものでした。古き良き時代の“産物”と言ってもいいかもしれませんね。
第23回NHK青年の主張全国コンクール全国大会
放送期間:1976年度・NHKアーカイブスより
調べてみますと、「青年の主張」は1956年1月15日からNHKラジオで中継され、1959年からテレビでも放送されるようになりました。そして、1989年からは「NHK青春メッセージ」となり、2003年まで続いて終了しました。私の記憶では、若者たちの主張の後に、若い歌手による歌謡ショーがあり、舟木さんが「成人のブルース」を歌っていたことを微かに覚えています。
放送期間:1989年度・NHKアーカイブスより
私は舟木さんが登場した日の放送内容を詳しく知りたくて調べましたが、なかなかいい記録が見つかりません。諦めかけていたころ、私にとっては“凄い資料”に出合うことになります。多くの舟友の皆さんにとっては旧聞に属する“普通の資料”かと思いますが、私にとってはなかなか興味深い内容ですので、ご存じない舟友さんのために、ご紹介させていただきます。
その資料とは、佐藤卓己さんの著書「青年の主張 まなざしのメディア史」(河出書房新社、上の写真)です。佐藤さんは私より10歳若い1960年10月9日生まれ。京都大教授で、社会学者、歴史学者、専門はメディア論です。この本は2017年1月30日に出版されています。435ページの読み応えのあるものです。この中から舟木さんに関する部分を引用させていただきます。
舟木さんが出演したのは1965年1月15日の「第11回NHK青年の主張全国コンクール全国大会」。午後1時から2時間、NHK総合テレビで初めて生放送されました。生放送では録画放送と違って、若者たちの主張の発表と審査結果の発表の間に、場面展開して何かを放送する必要がありました。このため、第二部に「成人おめでとう」という歌謡ショーが挿入されました。
佐藤さんの著書によると、この日の放送のために、前年12月25日に総合打ち合わせ、1965年1月7日から設置業者の下見、宮内庁・警察関係との打ち合わせなどが行われています。そして、当日は午前7時から音声映像関係の準備、8時から第一部「青年の主張」のリハーサル、9時から第二部「歌謡ショー」の音合わせ、10時から舞台転換作業の実施…などと進み、本番直前からの進行表は以下の通りです。
12時50分 開会挨拶
(司会者・野村泰治アナウンサー)
12時55分 皇太子、妃両殿下御着席
13時から14時 青年の主張コンクール放送
(NHK会長・前田義徳挨拶、出場者
紹介、審査員紹介、各5分以内の主
張×10名)
14時から3分間、成人客席ゲスト及び入場者
インタビュー(この間に舞台転換)
14時03分から同33分
第二部「成人おめでとう」
※この部分は別に説明
14時33分から同45分 客席にて来賓・愛知揆
一文部大臣の祝辞、大臣を囲んで
成人インタビュー(この間に舞台角
で「青年の主張」講評・表彰式用に
舞台転換作業)
14時45分から15時 審査員・臼井吉見の
講評、NHK教育局長・長浜道夫に
よる審査結果発表及びNHK会長・
前田義徳による表彰
14時03分から始まった第二部の「成人おめでとう」は歌謡ショー。ショーの歌順は以下の通りで、舟木さんに始まり、舟木さんで終わっています。
舟木一夫 「あゝ青春の胸の血は」
坂本九 「夜明けの歌」
「幸せなら手をたたこう」
吉永小百合 「寒い朝」
「いつでも夢を」
ダークダックス 「アンジェリータ」
「かあさんの歌」
梓みちよ 「リンデンバウムの歌」
舟木一夫 「成人のブルース」
佐藤さんによりますと、「ゲスト歌手で新成人は1944年生まれの舟木一夫だが、43年生まれの梓みちよ、45年生まれの吉永小百合に挟まれ、成人の日を意識した人選になっている」ということです。ちなみに舟木さんの誕生日は12月12日ですから、20歳になったばかりでした。
面白いのは、舟木さんの「成人のブルース」がリリースされたのは1965年3月ですから、発売の2か月以上前に「青年の主張コンクール」の会場で初披露されたことになります。しかも、歌謡ショーの“トリ”に据えています。舟木さんの当時の人気ぶり、勢いを示しています。
1966(昭和41)年1月に常磐湯本町天王崎(当時は常磐市)の成人式に
出席した晴れ着姿の女性(いわき市所蔵)
舟木さんはかつて、ステージのトークの中で「遠藤先生のメロディーラインが大好きな歌。この詞をはずして別の歌詞を付けて歌ってみたいとも思っています」と話しています。「成人のブルース」は紛れもなく、舟木さんの好きな“ブルース”の秀作だと思います。メロディーをそのままに、詞を舟木さんが創る。これは必ず実現させてほしいですね。舟木さんの作詞によって全く新しいブルースになるかもしれません。
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佐藤さんの著書には、これとは別に実に興味深いエピソードも紹介されています。元日本赤軍最高幹部の重信房子氏(1945年9月28日生まれ)に関するもので、第10回青年の主張東京地区大会に出場して入賞している事実です。ルポライターの竹中労を相手に半生を語った「サンデー毎日」の連載の1986年1月19日号に「NHK《青年の主張》に入賞しちゃった」の見出しで詳しく掲載されているということです。
それ以上に驚いたのは、重信氏が「高校三年生」でデビューした舟木さんの自宅を訪ね、レコード拡販の“親衛隊”になった武勇伝を楽しく回想している―と紹介されていることです。舟木さんがデビューしたのは18歳。重信氏が“親衛隊”になったのが事実なら17歳から19歳のころだと思われます。このころは純情な少女だったんですね。
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