舟木一夫と三田明㊦

 

 橋幸夫が「潮来笠/伊太郎旅唄」でデビューしたのが1960年7月5日、舟木一夫の「高校三年生/水色のひと」は3年後の1963年6月5日、三田明の「美しい十代/千羽鶴」は舟木と同じ年の10月10日、西郷輝彦の「君だけを/ひとりぽっち」が翌年の2月15日だから、普通にみれば、デビューが近い舟木、三田、西郷が“ひと塊”になる。

 

 

 だから、玉置宏とTBSテレビ系の「ロッテ歌のアルバム」の田中敦ディレクターが、舟木、三田、西郷の3人で「御三家」を作ろうと考えたことは納得できる話だ。ところが、ビクターから「そういう話なら、三田明ではなく橋幸夫にしてほしい」と申し入れがあった。この話はのちに私も玉置から聞いたことがある。その時に、三田外しではなく4人を束ねた「四天王」という話も出たようだ。

 

 

 とにかく、当時のビクターの上層部は、何を置いても「橋幸夫」、次いで「三田明」だったから致し方ない。三田はのちに舟木、西郷と「BIG3」を組み、2度にわたって全国を歌って回る機会があったが、楽屋で会った3人はともに生き生きしていた。橋、舟木、西郷の御三家で「G3K」を組んで全国公演した時より3人のイキがあっていて、BIG3のほうが“青春歌謡”に相応しいように思ったものだ。

 

 三田が初めて映画出演したのは、西郷がデビューする直前の2月8日に公開された日活映画「美しい十代」だった。いわゆる“歌謡映画”だ。共演は浜田光夫、西尾三枝子ら。また、三田が「ごめんねチコちゃん」でNHK紅白歌合戦に初出場するのも同じ年の大晦日。西郷も「十七才のこの胸に」で初出場している。ちなみに、「四天王」が紅白のステージで揃い踏みするのは、この年から三田が落選する前の1969年までの6回だった。

 

美しい十代

 

吉永小百合「この夕空の下に cw ごめんねチコちゃん」 CD-R

 

十七才のこの胸に [ 西郷輝彦 ]

 

 三田は紅白を落選した頃からヒット曲がなくなり、「このまま年齢も考えずに青春ものばかり歌っていていいのか」と真剣に考え始めた。三田は後にBIG3として全国を回っている時、舟木から「30代の頃に、いつまでも『高校三年生』じゃないだろうと、1年間この歌を歌わない時期があった。酒も飲めないのに夜の町を遊び回っていた」という話を聞いたと言う。三田は「あの時の僕と同じ思いだったんですかね」と後に振り返った。

 

明日は咲こう花咲こう

 

三田明         / 三田明

 

 三田は低迷していた時代に「役者の勉強をすることで何かをつかめるかもしれない」と、“歌手休業宣言”をしてテレビの時代劇に熱中した時期があった。そんな中で1983年に始まった里見浩太朗主演の日本テレビ系連続ドラマ「長七郎江戸日記」に出合い、柳生の忍者役がハマってレギュラー出演することになった。8年後の1991年9月に終了したが、三田は京都から東京駅に帰り着いた時、「今日からまた歌が歌えるんだと心底思いました」と後に話してくれた。

 

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 “低迷時代”の最中の1985年4月30日、仕事で知り合った某社長の行きつけだった博多のスナックのママさんのお嬢さんの山下麻理さんとハワイ・カウアイ島のシダの洞窟で挙式した。三田が少年の頃から大好きなエルヴィス・プレスリーが映画「ブルーハワイ」の中で、“ハワイアン・ウェディング・ソング”を歌って有名になった場所だった。「長七郎江戸日記」でお世話になり仲人をかって出てくれたという里見浩太朗がハワイアンソングを歌って祝ってくれたという。

 

 

 ところで、舟木、西郷、三田がBIG3として初めてコンサートを行ったのは2010年4月23日。愛知県芸術劇場だった。全国ツアーは翌2011年。東日本大震災の被災者のための募金活動も併せて計40公演を行った。この公演でそれまではそれほど意識していなかった“気の合う仲間たち”を実感した3人は2014年、今度は「青春歌謡 BIG3 2014」と銘打って、4月4日の神奈川・川崎教育文化会館を皮切りに大阪・新歌舞伎座まで計50か所で100公演を完走した。

 

 

 

 この公演を通して、三田は「いろんな事情で3人が口もきけない時代があって、ファン同士がいがみ合うこともありました。今、皆さんが当時のことを仲良く語り合ったりする。嬉しいことです」と話し、舟木も「当時はお互い負けたくないと思ってやっていました。それぞれの歩幅で歩いてきて肩の力が抜けたところで、今は一緒に出来る。同じ時代に青春を過ごしたことが時間が経ってみると愛おしく感じます」と語った。

 

 三田は舟木と同じ1963年のデビューだから、2022年が芸能生活60周年にあたった。3月に愛妻の山下麻理を亡くし、悲しい60周年のスタートになったが、10月10日には東京・中野サンプラザの13階コスモルームで「60周年突入 デビュー日のスペシャルショー」を開催した。「美しい十代」「北のなごり駅」「赤毛のおんな」など持ち歌はもとより、「高校三年生」などの“青春歌謡”から「赤いハンカチ」「ブランデーグラス」など石原裕次郎の歌の数々も披露した。

 

美しい十代 / 三田明 (CD-R) VODL-32147

 

 

三田明「赤毛のおんな cw 東京ラブロマン」 CD-R

 

 このスペシャルショーの中で、三田は亡き夫人のことを頭に思い浮かべながら話した。「輝さん(西郷輝彦)も亡くなり、BIG3も出来なくなりましたが、僕はこれからも歌い続けます」と、ファンの皆さんに力強く話しかけた。三田が舟木と同じステージに立つチャンスはまたある。その時は「BIG3は永遠に~輝さんを偲んで」と題して、舟木と一緒に西郷のヒット曲を沢山歌ってもらいたい。         (敬称略)

 

 

 

― 三田明公式サイト ―

 

 

 

 

 

 

 上記の「スペシャルコンサート」を観ました。そういえば、2019年はコロナが発生する前年ですから、お客さんが舟木さんに花束&プレゼントを手渡ししていたんですね。これぞ“流行歌の風景”=“舟木一夫ワールド”です。12月12日には79歳になる舟木さんには受け取りは結構シンドイかと思いますが、是非再び見てみたい光景です。

 

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 「決定版  舟木一夫の青春賛歌」(産経新聞出版)が発売されています。前著「舟木一夫の青春賛歌」を全面リライトしたうえ、このブログなどの内容を追加してまとめたものです。これまでのシングル全ジャケット写真、芸能生活のあゆみ(オリジナル)など60年のあらゆる記録も収めています。巻頭には舟木さんの最新インタビューも掲載しています。

 

 

 

 

 

  

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☆青春賛歌 目次【1】2022年~

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