舟木一夫と共に㊶

歌謡映画の最後のスター

 

 舟木一夫はワンシーンだけも含めると計32本の映画に出演(別表参照)し、“歌謡映画の最後のスター”とも呼ばれている。一般に「歌謡映画」というのは歌手のヒット曲を映画化したもので、1950年代から70年代を中心に作られた。映画の主題歌が公開後にヒットするケースもあった。「青春映画」と呼ばれるものは、文学作品を映画化したものなど「歌謡映画」よりジャンルは広い。そういう意味では、舟木らの世代が出演した作品は両方を合わせて「青春歌謡映画」と言ってもいいかもしれない。

 

 

 映画評論家の岡田喜一郎によると、戦後の歌謡映画は「悲しき口笛」(監督・家城巳代治)に代表される美空ひばりの一連のヒット曲の映画化に始まり、藤山一郎と奈良光枝が歌った「青い山脈」(監督・今井正)、織井茂子の「君の名は」(監督・大庭秀雄)、岡晴夫の「憧れのハワイ航路」などと続き、昭和30(1955)年代は春日八郎の「別れの一本杉」(監督・萩山輝男)、フランク永井の「有楽町で逢いましょう」(監督・島耕二)などを経て、石原裕次郎、小林旭らの日活映画に入って行くことになる。

 

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 橋幸夫や舟木らの時代になると、「歌謡曲ヒット→テレビ出演→映画化」という流れが鮮明になり、舟木の「高校三年生」(監督・井上芳夫)をはじめ、橋幸夫&吉永小百合の「いつでも夢を」(監督・野村孝)、坂本九の「見上げてごらん夜の星を」(監督・番匠義彰)、倍賞千恵子の「下町の太陽」(監督・山田洋次)などの“青春歌謡映画”がヒットしていった。岡田は「“聴かせる歌”から“観せる歌”に変貌したと言っていいのではないでしょうか」と実に上手い表現を使った。

 

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― 「高校三年生」など上映告知のチラシ ―

 

 

 

 

 舟木が「高校三年生」でデビューしたのが1963年6月5日。大映映画「高校三年生」が公開されたのは11月16日。逆算すると、デビュー2か月後には映画の企画会議が始まっていた計算になる。新人歌手の映画化としては極めて異例だった。この映画のヒットを受けて、大映の製作現場では舟木の2作目の「修学旅行」(8月発売)に合わせて映画化する話が進められた。しかし、大映社長の永田雅一が外遊中で決済が下りず、しびれを切らしたホリプロ社長・堀威夫が日活に話を持ち込んだ。

 

―「夢のハワイで盆踊り」の共演者を決める審査会のチラシ―

 

 当時の日活の映画プロデューサーは石原裕次郎ら多くの俳優を育てた水の江瀧子。10月に発売された「学園広場」を映画化することで即決した。これを機に舟木の作品の多くは別表にあるように日活でシリーズ化された。日活の最後の作品は1968年12月10日公開の「青春の鐘」(監督・鍛冶昇、脚本・倉本聰)で、翌年の松竹映画「永訣」(監督・大庭秀雄)と「いつか来るさよなら」(監督・川頭義郎)以降、1979年のATG規格映画「青春PARTⅡ」(監督・小原宏裕)まで10年近く映画が途切れてしまった。

 

学園広場

 

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   歌謡映画に対して、低俗な娯楽映画で芸術性に乏しく映画史上に残る作品ではないという厳しい評価があるが、岡田は「そもそも歌謡曲は、その時代に生きる大衆の心情を歌ってきた。その歌と映画が結びついて成り立つのが歌謡映画で、歌謡映画がヒットするのは大衆の心を掴んでいたからということになる。作られた時代的背景や当時の世相を映し出していて、時代の証言者と言っていい。芸術性が高いと言われる映画より、世相や大衆思考などが端的に表現されているのではないか」と指摘した。

 

   「大衆の心を掴む」というのは、まさに「流行歌」の神髄でもある。もっとも、舟木の「絶唱」や「夕笛」(監督はいずれも西河克己)は、それまでに高く評価された映画よりよほど芸術性が高く映画史上に残る作品であることは誰もが認めるところではないか。そういう私の指摘に対して、岡田は「ヒット曲→映画化という図式を歌謡映画と名付けるとすれば、舟木一夫は“歌謡映画の最後のスター”と言っていい」と断定した。

 

 

  

 

        

 

 

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 別表に入れた映画「小梅姐さん」については、若干説明が必要かもしれない。これは、「炭坑節」や「黒田節」などの民謡をヒットさせNHK紅白歌合戦にも出場した芸者出身の歌手・赤坂小梅の生誕100周年を記念して製作されたドキュメンタリー作品。表の中の※は赤坂小梅生誕100年記念映画製作上映委員会。

 

― 「小梅姐さん」予告編 0:40に舟木一夫さん ―

 

 小梅は北九州で芸者をしていたところ、作詞家・野口雨情に認められて1929(昭和4)年に歌手デビューしている。1981年に75歳で引退後、1992年1月17日に85歳で亡くなった。歌一筋に生きた“小梅姐さん”の生涯を記録映像に残そうと、関係者へのインタビューを交えてたどっている。その1人が舟木。他に菊池淡狂、島倉千代子、菅原都々子、畠山みどり、原田直之らが登場している。

                             

 

音譜  音譜  音譜

 

 

 

音譜  音譜  音譜

 

 

 

 

 

 

 

 

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