舟木一夫と共に㊳芸能生活★周年㊤

舟木一夫と共に㊳

芸能生活★周年㊤

　舟木一夫の芸能生活30周年は、10数年に及ぶ“寒い時代”から“復活の時代”に向けて動き出した時期だ。舟木は復活の時期を30周年に狙いを定めていた。1991年12月5日の東京・中野サンプラザホールからスタートさせたプレ30周年の特別公演で、あえて日本レコード大賞・最優秀歌唱賞受賞曲の「絶唱」を“封印”した。心機一転立ち上がろうとしている時に「居眠りをしていた自分にペナルティーを課すため」(舟木)だった。今なら歌えると納得ができた時に、改めて歌い出すことにしたかったのだ。

　1994年11月に行った名古屋・中日劇場での特別公演(1日～27日)のオンステージには舟木の大ファンだった、きんさんぎんさん姉妹も観劇し「絶唱」などを楽しんだ。この模様はスポーツ紙やワイドショーで話題になった。また、この頃、舟木は「四国か山陰地方での公演で『夕笛』を歌っている時、突然“抜けた”と思った。その時に、上手い歌い手じゃなく、いい歌い手になりたかったんじゃないの、技術じゃなくて、いい声じゃないのって気づいたんです」とも語っていた。

　そういう復活劇だったため、大々的に30周年記念曲と銘打ったものはないが、あえて言えば作詞家&音楽プロデューサー・秋元康との出会いだろう。舟木は1990年9月に「落日のあとで」(作曲・徳久広司)、1991年11月に「友よ」(作曲・杉本真人)、1992年6月に「人生半分」(作曲・杉本真人)を立て続けにリリースしている。タイトル、歌詞からも復活への目覚めが感じられる。秋元とタッグを組むことで心機一転を図ろうとしたことが想像できる。

　35周年は、舟木が「完全に正常な呼吸を始めた」と位置付けた年だった。1月は中日劇場で1か月公演「坊っちゃん奉行」、休む間もなく2月は大阪・新歌舞伎座で同じ演目で1か月公演、3月から5月は全国10会場で35周年リサイタル。そして5月末から松竹新喜劇との初めての全国合同ツアー公演を全国21会場で展開した。NHK大河ドラマ「毛利元就」(「椋梨景勝」役)への出演依頼が届いたのもこの頃だった。「春の坂道」への出演以来実に26年ぶりだった。

椋梨景勝　ＮＨＫアーカイブスより　

　“寒い時代”が嘘のような状況だった。舟木は当時の産経新聞に「半分生きて、半分生かされて、振り向けば35年。みなさまへの感謝の言葉などどこを探しても見当たらない。『ありがとう』では、とても足りない。『高校三年生』『学園広場』……。あのスタートを見届けていただけたみなさまへの思いは一つ。できれば一緒に歩いてくれませんか」というメッセージを寄せている。完全復活と言っても、お客さんに対してはまだ遠慮が残るメッセージだった。

　40周年の2002年は1月から全国9会場で「40周年記念　新春ビッグステージ」を開き、5月21日には東京・赤坂プリンスホテルで、橋幸夫、西郷輝彦らベテラン歌手仲間に氷川きよしも加わり、後援会員も含めた約800人とともに芸能生活40周年を盛大に祝った。同じ5月に本名・上田成幸として自ら作詞・作曲した40周年記念曲「浮世まかせ」もリリースされた。のちに50周年記念曲を何にするかという時に、舟木は「『浮世まかせ』は(リリースするのが)10年早かった」とよく口にしていた。

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　「浮世まかせ」の歌詞について、舟木は当時「あまり突っ込んだ言葉を使わない、分かりやすい言葉を使って単純なメロディーという思考にどんどん戻ってきているんです。歌い込むというよりは、歌をお客さまの中に置いていくというか、メロディーに乗せた言葉みたいなものをお客さまの中にぽんぽん置いていく感覚なんですね。実年齢とキャリアがクロスするとそういうことになるのかな」と話している。

―　解体前の赤坂プリンスホテル　Wikipediaより　―

　東京・赤坂プリンスホテルで開かれた40周年、50周年のパーティーには私も参加させてもらった。舟木は終了後、出口付近で出席者一人一人と握手を交わして御礼の気持ちを伝えていた。特に“寒い時代”から完全復活した40周年のパーテイーでは多くの方が舟木の握手に「ありがとう」の気持ちが加わり、力が入っているように感じたと思う。それぞれのパーティーで出席者にワインが手渡された。　　　　　(敬称略)