舟木一夫が京都・南座で選んだ曲⑪

舟木一夫と「夜霧よ今夜も有難う」

～2023.5.26-28京都・南座での選曲～

　舟木一夫さんが2023年5月26日から28日まで、京都・南座で行ったシアターコンサート第一部「ブルースのか・け・ら」のラスト・12曲目に選んだのは、石原裕次郎さんが1967年2月にテイチクレコードからリリースした「夜霧よ今夜も有難う」(作詞&作曲・浜口庫之助)でした。B面も浜口さん作詞&作曲の「粋な別れ」で、超豪華EPレコードと言えます。

　裕次郎さんの「夜霧よ今夜も有難う」と「粋な別れ」という名曲2曲を作ることになった経緯について、浜口さんは自著「ハマクラの音楽いろいろ」(1991年12月5日、朝日新聞出版)の中で、おおむね次のように述べています。

　浜口さんが山梨県警や公正取引委員会から甲府の「青少年を育む会」の歌を作って欲しいという依頼があり、同県警本部長らと山中ゴルフ場でプレーをしていました。何ホールか打ち進んだところで、後からキャディーを連れ1人でやって来る男性が見えました。一緒にプレーしていた1人が「あれは石原裕次郎じゃないか」と言いました。こちらは3人だけだったので、一緒にやることになりました。

　裕次郎さんは1961年1月、志賀高原のスキー場でスキーヤーと衝突して右足首を複雑骨折し長期入院&療養を余儀なくされました。浜口さんらと会った時は、かなり良くなってリハビリを始めて間もない頃でした。ゴルフが終った後で、一杯やりながら皆で話しているうちに、裕次郎さんから「先生、何か良い曲を書いてくれませんか。税金がガッポリきたんで、それを払うために全国を歌って歩くことにしたんです」。

　浜口さんは「僕でよかったら、やってみよう」と言って別れ、帰ってすぐに作曲にとりかかり、「夜霧よ今夜も有難う」と「粋な別れ」の2曲を作るのにあまり時間はかかりませんでした。構想とタイトルが出来た時点で、東京・赤坂の料亭で裕次郎さんと飲みました。裕次郎さんはすごく喜び、後日、テイチクの新橋スタジオに取材記者を呼んで、ピアノでこの曲を聴かせた時は涙ぐんでいたと言います。

　浜口さんは2曲を作る際、「当時見た裕次郎映画の、どこかのシーンから想像して作った。裏町の飲み屋を舞台に、レインコートの襟を立てて登場する裕次郎を描写した」━と明かしています。そして、「裕次郎君は感激する人である。そしてその感激を人に伝えることの出来る人であった」と書き記しています。

　1917年7月22日に兵庫県神戸市で生まれた浜口さんは音楽好きの家族の中で育ち、戦後は東京でバンドを組み、進駐軍を相手に演奏後、アフロクバーノというバンドでNHK紅白歌合戦にも出場。1957年にバンドを解散して作詞・作曲家に転向し、1959年にスリー・キャッツの「黄色いさくらんぼ」や守屋浩さんの「僕は泣いちっち」、1960年の守屋さんの「有難や節」などヒットを連発しました。

　1966年には西郷輝彦さんの「星のフラメンコ」などで第8回日本レコード大賞・作曲賞を受賞。裕次郎さんの「夜霧よ今夜も有難う」はそんな中で誕生しました。この曲は1967年3月11日に同名の日活映画(監督・江崎実生、主演=石原裕次郎、浅丘ルリ子)として公開されました。1942年11月26日に公開された米映画「カサブランカ」(監督=マイケル・カーティス、主演=ハンフリー・ボガート、イングリッド・バーグマン)を模倣して製作されたものとして話題になりました。

　ちなみに、浜口さんが1973年に再婚した女優・渚まゆみさん(1944年10月10日生まれ)は、1961年に映画「夕やけ小やけの赤とんぼ」(監督・島耕二、8月8日公開)に主演して売り出した大映の新人スターで、1963年には舟木さんの初めての映画「高校三年生」(監督・井上芳夫、11月16日公開)、翌年の「続高校三年生」(監督・弓削太郎、8月22日公開)でも共演しています。映画を観る機会がありましたら、注目してご覧になってみてください。