舟木一夫が京都・南座で選んだ曲①

舟木一夫と「湖畔の宿」

～2023.5.26-28京都・南座での選曲～

舟木一夫さんが2023年5月26日から28日まで、京都・南座で行ったシアターコンサート第一部「ブルースのか・け・ら」のオープニング曲に選んだのは、女優・高峰三枝子さんが1940(昭和15)年6月にリリースした「湖畔の宿」(作詞・佐藤惣之助、作曲・服部良一)でした。

　高峰さんは“いいとこのお嬢さん”でかつ“女優らしい女優さん“でした。その一方で、1968年4月から1973年5月まで、フジテレビ系の「3時のあなた」の月・火曜日の司会を務めるなどお茶の間でも愛された方でした。私はなかでも歌手としての高峰三枝子さんが好きでした。

「３時のあなた」の司会者らと。中央が高峰さん

高峰さんは自著「人生は花いろ女いろ」(主婦と生活社)の中で、「3時のあなた」について、「私はもともと未完成のところに参加して、みんなでアイデアを出して作り上げていくのが好き」とし、「ツーンとすまして冷たい人だなと思っていたけど、実物は気さくな人らしい」というのが出演した後の大方の感想だったと記しています。

　高峰さんが上原謙さんと共演した国鉄の“フルムーン”CMもヒットしましたね。フルムーン夫婦グリーンパスで、夫婦の年齢の合計が88歳以上だとグリーン車乗り放題になるというものでした。2人のCMは1982年から5年間放映され、初期のものは高峰さんが温泉につかって豊満な胸の谷間を大胆に披露して話題が沸騰しました。

　高峰さんは1936年に筑前琵琶奏者の父・高峰筑風さんが急死したため、一家を養うために映画界入りしました。理知的で気品のある美貌が人気を集め、「浅草の灯」(下の写真)の踊子役で口ずさんだ歌が注目され、コロムビアレコードがスカウト。霧島昇さんとのデュエット曲がヒットし、“歌う映画女優”と言われるようになりました。

　「湖畔の宿」は「戦時色がない」という理由(当時らしい!?)でコロムビアレコードがすぐに発売に踏み切れなかったようで、発売後も特に宣伝活動をしませんでしたが、特攻隊員の慰問に行き「純情二重奏」や「南の花嫁さん」とともに「湖畔の宿」を歌うと大歓迎されました。約30万枚のレコードが製造されたとも言われています。

　高峰さんは当初、この曲の「湖」について、神奈川県箱根町にある芦ノ湖をイメージして歌っていました。ところが、作詞した佐藤惣之助さんは1942年5月15日に亡くなる直前に、榛名湖畔の一軒宿「湖畔亭」の仲居さん宛に送った手紙の中で、「湖は榛名湖、宿は湖畔亭にしておこう」と記し、榛名湖(扉の写真)をイメージして作ったことを明かしています。

「湖畔の宿」のモデルになった「湖畔亭」

　手紙の内容が公表されたのは1988年になってからで、これを受けて群馬県高崎市榛名湖町では翌年に榛名湖の西岸に「榛名『湖畔の宿』記念公園」を整備。前に立つと「湖畔の宿」のメロディーが流れる「歌碑」や乙女の像(下の写真)などが建てられました。私は行ったことがありませんが、歌碑の場所からは榛名湖を眺望できるということです。

「湖畔の宿」の歌碑

詩人であり作詞家でもあった佐藤惣之助さんは、「湖畔の宿」のほか「人生の並木路」「青い背広で」「緑の地平線」「赤城の子守唄」「新妻鏡」「人生劇場」などの名曲のほか、「阪神タイガースの歌(六甲おろし)」(作曲・古関裕而)も作詞しています。また、「真実一路の唄」は美空ひばりさんが「真実一路」としてリバイバルヒットさせました。

　「湖畔の宿」は高峰さんの台詞も効いています。♪あゝ　あの山の姿も湖水の水も　静かに静かにたそがれていく…　この静けさ　このさびしさを抱きしめて　私は一人旅をゆく…。榛名湖、そしてその湖畔が目の前に広がってきます。名女優・高峰三枝子ならではです。「高峰さんのこの台詞を聴くと泣けてきます」というファンも少なくありません。