舟木一夫が中野サンプラザで選んだ曲⑬

舟木一夫と「君へ心こめて」

～2023.4.25中野サンプラザでの選曲～

　舟木一夫さんが2023年4月25日に東京・中野サンプラザで行ったラストコンサート第二部「ありがとうサンプラザ」のラスト曲に選んだのは、1997年8月21日にリリースした「君へ心こめて」(作詞&作曲・上田成幸)でした。B面も作詞&作曲・上田成幸の「29小節の挽歌」です。作詞&作曲とも上田成幸会心の作だと思います。舟木さんはしばしば歌われます。オープニングに歌われたこともあるかと記憶しています。

　　　木枯しの夜空を　肩にささえて

　　　あてもない旅びと　俺も君も

　　　若さゆえにすてた　花の二片

　　　愛の日々よ　熱き友よ

　　　振りむけば流星　北へ尾を引く

　　　今さらにいたみは　君のなみだ

　　　望むひとに夢に　めぐり逢えたか

　　　寒さ閉ざす　明日はあるか

　　　悲しみを悔みを　抱いて生きるな

　　　何よりも君には　それを願う

　　　俺が心こめる　歌の一片

　　　春を告げろ　君に届け

　　　俺が心こめる　歌の一片

　　　春を告げろ　君の空に

　「いたみ(痛み)」や「なみだ(涙)」、「ひと(人)」は漢字にしたいところですが、舟木さんはあえて平仮名にします。もちろん、“あえて”だと思いますが、平仮名の使い方については機会があれば伺ってみたいと思っています。「花の二片(ふたひら)」と「歌の一片(ひとひら)」の対はなかなか浮かびません。舟木さん(上田成幸さん)独特の表現ですね。

1990年に入って、舟木さんは「落日のあとで／風のワルツ」(1990年9月)、「友よ／いつか愛したおまえ」(1991年11月)、「人生半分／これから」(1992年6月)、「泣かないで／北の道しるべ」(1993年5月)、「ありがとうあなた／めぐり逢う日を…」(1994年1月)、「風、好きに吹け～迷夢本望／最後の恋」(1995年9月)、「想春／いつでも青春」(1996年12月)と毎年、シングル1枚ずつリリースしています。

　「君へ心こめて」をリリースした1997年は、デビュー35周年の年。舟木さん自身、「完全に正常な呼吸を始めた」と語っています。芝居のほうも順調で、1月に名古屋・中日劇場で1か月座長公演「坊っちゃん奉行」を行った後、休む間もなく、2月に大阪・新歌舞伎座で1か月公演「坊っちゃん奉行」を行いました。場所を変えての事実上の2か月連続公演でした。

　続いて3月から5月まで35周年記念コンサートを開き、5月から6月にかけては松竹新喜劇とともに全国ツアー公演をこなしています。さらに、8月に東京・新橋演舞場で「野口雨情ものがたり」、10月に京都・南座で「喧嘩安兵衛」と、年に4回の1か月座長公演を行っています。この間、1月にはNHK大河ドラマ「毛利元就」に椋梨景勝役で出演しています。

― NHK アーカイブス人×物×録より ―

　舟木さんは当時、産経新聞に「半分生きて、半分生かされて、振り向けば35年。みなさまへの感謝の言葉などどこを探しても見当たらない。『ありがとう』では、とても足りない。『高校三年生』『学園広場』……。あのスタートを見届けていただけたみなさまへの思いは一つ。できれば一緒に歩いてくれませんか」と、遠慮がちに思いを寄せています。

　「君へ心こめて」はそんな中でリリースされた曲だということを思って聞くと、舟木さんからお客さんへの深い思いが伝わってきますね。　