舟木一夫が中野サンプラザで選んだ曲⑩

舟木一夫と「青年おはら節」

～2023.4.25中野サンプラザでの選曲～

　舟木一夫さんが2023年4月25日に東京・中野サンプラザで行ったラストコンサート第一部「輝さんのおもかげ」の最後の10曲目に選んだのは、西郷輝彦さんが1965年1月1日にリリースした9枚目のシングル「青年おはら節」(作詞・星野哲郎、作曲・米山正夫)でした。第一部のラスト曲にこの歌を選んだのには、舟木さんの熱い想いがこもっていました。

　舟木さんはコンサートのトークで、「一部のラストには単純に輝さんの歌を聴きたい。この歌が好きだということで選びました。この歌はまさしく輝さんそのままです。皆さん、スタンディングでやりましょう」と客席のお客さんを促し、全員がスタンディングして手拍子を打つのに合わせて、西郷さんの「青年おはら節」を歌い上げました。

　鹿児島には江戸時代から、♪花は霧島　煙草は国分　燃えて上がるは　オハラハー桜島…で有名な「鹿児島おはら節」が歌われていました。鹿児島民謡の代表格です。鹿児島出身の歌手兼芸者の新橋喜代三さんが1933年頃に初めてレコード化したのがきっかけで全国に広まって行きました。東京・渋谷で行われる渋谷・鹿児島おはら祭でも歌われます。小林旭さんらがカバーしています。

　「青年おはら節」は「鹿児島おはら節」を現代風にアレンジしたもので、鹿児島出身の西郷さんにぴったりの現代風民謡と言えます。星野哲郎さんが西郷さんのために初めて作詞した作品で、♪夢ならでっかい　夢をみろ　薩摩隼人の　名にかけて　♪いずこの土に　埋もれても　愛を忘れぬ人となれ　♪息子よ父親を越えてゆけ…と、若者への応援歌にもなっています。

　ところで、西郷さんは前立腺がんが再発した後の2019年12月、初めて舟木さんと2人きりで2時間くらい、東京・赤坂の中華料理店で食事をしました。その後、何回か電話で話しているうち、西郷さんは「55周年の記念コンサートをやりたいので出演してほしい」と舟木さんに依頼し、話を進めていましたが、2021年に決めていたスケジュールは新型コロナ禍で延期になりました。

夕刊フジで私がインタビューした記事です。西郷さんの笑顔が忘れられません

　満を持して2020年3月19日に中野サンプラザで舟木さんが友情出演という形で開くスケジュールを押さえ、ポスター(上の写真)も作ったものの、またコロナで中止になりました。舟木さんは西郷さんの体調がより厳しくなっているのを知っていましたから、「今度は2部構成にして、俺がつなぎでちょこちょこ顔をだすから何とかやろうよ」と再々チャレンジの準備を進めましたが、“2人の約束”を叶えることは出ませんでした。

　舟木さんは中野サンプラザでのラストコンサート終演後、スポーツ報知の取材に対して、「当初は気持ちが追い付かなくて、心が揺れていましたが、今年2月に一周忌を迎え、しのぶ会を終えたことで、最後のサンプラザで、今なら整理が付けられるのではと思い、楽曲を猛練習して本番に臨みました」と答えていました。舟木さん1人だけのステージになりましたが、2人の“遅ればせながらの約束”を果たすことになりました……。