舟木一夫が中野サンプラザで選んだ曲②

舟木一夫と「恋人ならば」

～2023.4.25中野サンプラザでの選曲～

　舟木一夫さんが2023年4月25日に東京・中野サンプラザで行ったラストコンサート第一部「輝さんのおもかげ」の2曲目に選んだのは、1965年7月1日にリリースされた西郷輝彦さんの15枚目のシングル「恋人ならば」(作詞&作曲・米山正夫、編曲・重松岩雄)でした。西郷さんらしさが出ている曲です。本人も好きな曲の一つだったと思います。

　「恋人ならば」の1年前の1964年8月5日にビクターの橋幸夫さんが「恋をするなら」(作詞・佐伯孝夫、作曲・𠮷田正)をリリースして大ヒットさせていますが、これが“エレキ歌謡”の先駆けと言われています。クラウンとしてもこの曲をかなり意識して、西郷さんの意見も取り入れて、ビクターが「恋をするなら」ならクラウンは「恋人ならば」と大勝負に打って出たのではないでしょうか。

タイトルもそうですが、「恋をするなら」に出てくる　♪AAA III EEO AIO　の繰り返しと、「恋人ならば」の　♪ブムババ　ブムババ　ブムババ　ブムバ　の繰り返しも従来の歌にはなかったフレーズで、当時も評判になりました。お互いを相当意識している歌詞です。しかし、私的には“エレキ歌謡”というノリでは西郷さんの方に軍配を上げたいと思います。

　ところで、「恋人ならば」に代表されますが、西郷さんの曲には米山正夫さんの作品が結構登場します。以下に主なもの抽出しました。

　　　1965年1月1日　「青年おはら節」(作詞・星野哲郎、作曲・米山)

　　　1965年4月1日　「涙をありがとう」(作詞・関根浩子、作曲・米山)

　　　1966年1月10日「西銀座五番街／恋のGT」(作詞&作曲・米山)

　　　1966年11月1日「初恋によろしく」(作詞・星野哲郎、作曲・米山)

　　1967年2月1日　「恋人をさがそう」(作詞・原とし子、作曲・米山)

　　　1967年10月1日「潮風が吹き抜ける町」(作詞・奥野椰子夫、作曲・米山)

　　　1968年4月1日　「虹を買おう」(作詞・磯村浩、作曲・米山)

　米山さんは1912(大正元)年10月3日、東京・千駄ヶ谷生まれ。1934年に現在の東京音楽大学を首席で卒業すると同時に、江戸川蘭子さんの「春の謳歌」で作曲家デビューしました。1947年、「NHKラジオ歌謡」で放送された「山小舎の灯」が大ヒットしたのを機にコロムビアレコードの専属作曲家になりました。「リンゴ追分」「車屋さん」「津軽のふるさと」など美空ひばりさんの初期のヒット曲も手掛けました。

　1963年にクラウンレコード創設とともに同社の専属作曲家になり、西郷さんのほか、美樹克彦さんの「花はおそかった」、水前寺清子さんの「三百六十五歩のマーチ」などのヒット曲を作曲しました。名作詞家であり名作曲家だった米山さんは1985年2月22日、糖尿病から肺炎を併発して亡くなりました。72歳でした。葬儀では美空ひばりさんが弔辞を読みました。歌謡界ではそれほど活躍した人なんです。　