舟木一夫が新歌舞伎座で選んだ曲～番外③

舟木一夫と「山のかなたに」

～2023.3新歌舞伎座コンサートでの選曲～

　舟木一夫さんが2023年3月に大阪・新歌舞伎座で行ったコンサート第二部の5曲目に選んだのは1966年1月にリリースした「山のかなたに」(作詞・丘灯至夫、作曲・山路進一)でした。歌詞、曲とも“青春歌謡”の色と匂いを強く感じさせてくれる名曲だと思います。そして、舟木さんでなければこの独特な“青春歌謡”の味を出すことは出来ません。

　「山のかなたに」は1966年1月17日から4月11日まで放送された日本テレビ系の連続ドラマの主題歌です。同年8月15日から11月7日まで放送された「雨の中に消えて」、1967年2月13日から7月3日まで放送の「あいつと私」の各主題歌とともに、舟木さんにとって日本テレビの連続ドラマの主題歌“3部作”と言える名曲の第一弾になったものです。

　丘さんは師匠にあたる西條八十さんが作詞した「青い山脈」(作曲・服部良一、歌・藤山一郎)の詞を意識して書いたものであることは明らかで、例えば「古い上衣(うわぎ)」→「ふるいこよみ」、「雪割桜」→「雪割草」、「若いわれらに鐘が鳴る」→「告げて夜明けの鐘が鳴る」に置き換えられています。いずれも原作は石坂洋次郎さんです。

山のかなたに・丘灯至夫

　　♪若さみなぎる　眉あげて　　　　　　　

　　　仰ぐわれらの　あさぼらけ　　　　　　　

　　　山のかなたに　きらめく虹に　　　　　　

　　　君もゆけゆけ　君もゆけゆけ　　　　　　

　　　ぼくもゆく　　　　　　　　　　　　　　

　　♪ふるいこよみに　さよならを

　　　告げて夜明けの　鐘が鳴る

　　　君の笑顔か　雪割草の

　　　花も谷間に　花も谷間に

　　　ゆれて咲く

　最初に映画化されたのは1950年7月8日公開の新東宝映画(監督・千葉泰樹、主演・池部良)で、主題歌は作詞・西條八十、作曲・服部良一、歌・藤山一郎。2作目は1960年2月2日公開の東宝映画(監督・須川栄三、主演・宝田明)で、主題歌の作詞・作曲は前作と同じ、歌は宝田明さんでした。ちなみに、1960年の映画には山内賢さんが2年後に日活に入社して改名する前の“久保賢”で出演しています。

　西條さんが作詞した「山のかなたに」は、以下の通りです。

山のかなたに・西条八十

　　♪山のかなたに　あこがれて

　　　旅の小鳥も　飛んで行く　

　　　涙たゝえた　やさしの君よ　

　　　行こよ　みどりの尾根越えて

　　♪山のかなに　鳴る鐘は

　　　聖(キヨ)い祈りの　アヴェマリア

　　　つよく飛べ飛べ　こころの翼

　　　光る希望の　花のせて

日本テレビの「山のかなたに」(監督・斎藤武市、鍛冶昇、枝川弘)の主演は松原智恵子さんで、津川雅彦さん、轟夕起子さん、松原マモルさん、伊藤るり子さん、西尾三枝子さん、山本陽子さんらが共演していました。毎週月曜日の20:00から20:56の放送で、舟木さんは毎週歌っていたのですが、登場したのは上島健次郎役で最終話だけでした。私はこの頃の松原さんのブロマイドを定期入れに忍ばせていました。