舟木一夫が新歌舞伎座で選んだ曲⑩

舟木一夫と「王将」

～2023.3新歌舞伎座コンサートでの選曲～

　舟木一夫さんが2023年3月に大阪・新歌舞伎座で行ったコンサート第一部の10曲目に選んだのは、1961年11月にリリースされた村田英雄さんの「王将」(作詞・西條八十、作曲・船村徹)でした。村田さん最大のヒット曲で、当時は売り上げが150万枚を超えたことで話題になりました。最終的には300万枚を超える大ヒット曲になりましたが、戦後初のミリオンセラーとも言われています。

ーコロンビアオフィシャルサイト－

　この歌を書いた時、西條さんは早稲田大教授(仏文学)で69歳、船村さんは29歳でした。西條さんは「王将」の企画を聞いた時、「えっ、今時こういうレコードを誰が買うんですか」と後ろ向きでしたが、数年前に亡くした妻を思い浮かべながら作りました。一方の船村さんは企画にすぐ反応し、坂田三吉をモデルにした西條さんの詞を見るなりメロディーが浮かんだと言います。

　村田さんは「王将」を1961年の第12回NHK紅白歌合戦で初めて歌った後、1962年の第13回、1969年の第20回、1989年の第40回の紅白歌合戦…と計4回歌いました。1962年の第4回日本レコード大賞では特別賞を受賞しています。この歌が大ヒットしたことで、西條さん、船村さん、村田さんの3人は日本将棋連盟からアマチュア初段を授与されました。

　村田さんの「王将」は1962年11月23日に公開された東映映画「王将」(伊藤大輔監督、坂田三吉=三國廉太郎)、1963年12月1日公開の東映映画「続・王将」(佐藤純彌監督、坂田三吉=三國廉太郎)、1973年5月19日公開の東宝映画「王将」(堀川弘通監督、坂田三吉=勝新太郎)の3本の映画の主題歌として使われました。ちなみに、1948年10月18日公開の大映映画「王将」(伊藤大輔監督)が最初の映画です。

　ところで、村田さんは福岡県吉井町の生まれ。4歳の時に両親とともに一座の巡業に加わり、5歳の時に浪曲師・酒井雲門下に弟子入りし修行。師匠から酒井雲坊の名前をもらい13歳で真打昇進、14歳で「酒井雲坊一座」の座長になり九州で地方公演を続けました。1949年、浪曲界に顔が利く西川芸能社の西川幸男さんと出会い、“日本一の浪曲師”を目指して上京します。村田英雄と改名したのは25歳の時でした。

　1958年、たまたまラジオで若手浪曲家としての村田さんの口演を聴いていた作曲家の古賀政男さんに見いだされます。古賀さんは同年7月に「無法松の一生」(作詞・吉野夫二郎)を作曲して村田さんをコロムビアから歌手デビューさせました。同時に発売された「度胸千両」と合わせた「無法松の一生<度胸千両入り>」として知られるようになりました。

　実は、舟木さんの父・栄吉さんが日中戦争で中国各地を転戦して帰国後、愛知県一宮市萩原町の住まいの向かいにあった萩原劇場を安く買い取って経営を始めました。舞台には歌手の藤山一郎さん、霧島昇さんらのショー、相撲の巡業興行、旅回り一座の芝居などのほかに、浪曲師・酒井雲坊時代の村田英雄さんの姿もありました。舟木さんは4歳か5歳の頃ですから、覚えていないかもしれませんね。