舟木一夫と「その人は昔のテーマ」
~2023年コンサートツアーの選曲~
舟木一夫さんが2023年通常コンサートの25曲目に選んだのは「その人は昔のテーマ」でした。この歌は1966年11月にアルバム「その人は昔~東京の空の下で~」(作詞・松山善三、作曲・船村徹)の中の曲としてリリースされ、1992年5月のアルバム「舟木一夫大全集~陽射し・旅人~」に単独で収録され、ようやく2018年7月4日に「その人は昔のテーマ」として新しく録音し直しシングルカットされています。これは舟木さん以外の歌手が歌っても似合わない曲ですね。
舟木さんの相棒であるコロムビア・ディレクターの栗山章さんは、舟木さんと仕事をしているうちに「30㌢LPレコードは、A面B面合わせて1時間の音楽を収録できる。そこへシングル12曲をトコロテンみたいに並べて押し込むのはもったいない。テレビドラマやラジオドラマがあるように、レコードから生まれる音楽劇があってもいいじゃないか」と考えるようになりました。舟木さんなら出来ると思ったんでしょうね。栗山さんならではの発想です。
アルバム制作にあたって、作詞は「叙情を書かすならこの人をおいて他にいない」と栗山さんが太鼓判を押す映画監督&脚本家の松山善三さん=女優・高峰秀子さんの夫、作曲は「がんこなほど自分のスタイルを変えない」という作曲家・船村徹さんと決め、コロムビアに提案したうえで2人に依頼しました。栗山さんは松山さんに対して、同じ字数の繰り返しではない散文形式の言葉による物語を作って欲しいと具体的に説明しました。ディレクターというのはこうでなくてはいけません。
栗山さんの注文通り、自由詩、散文、朗読文、対話文など様々な形式の詩情溢れる文章で綴られた松山さんの“台本”を見た船村さんは「これでは週刊誌の記事に曲を付けるようなものじゃないか」と思いつつも松山さんに刺激されて、歌謡、民謡、ジャズなどあらゆるジャンルの音楽を取り入れました。書きあげた譜面は70枚。船村さんは「成功させれば後にも続くことになると思いましたからね」と話してくれました。歌謡史に残る大作業でした。
制作日数は約半年、制作費は約400万円。効果音はディレクターら5人が真夏に北海道・襟裳岬と周辺に出かけてサウンドハンティングを行いました。襟裳岬の断崖絶壁から身を乗り出して波の音を録ったり、汽笛を鳴らしてもらったり、駅で汽車を走らせてもらったり、牧場で馬を走らせてもらったり……。このチームでなければ出来ませんでした。東京に戻ってからは毎晩遅くまでホテルに缶詰め状態になって仕上げ作業を行ったと言います。
舟木さんはレコーディング本番で、約70人のオーケストラと40人の合唱団をバックに歌いました。冒頭のナレーションは重鎮の宇野重吉さん、舟木さんの相手役は民芸の演技派女優・松本典子さん。世界的な写真家・奈良原一高さんがジャケット写真のほか、44ページにわたる“写真集”の制作に携わりました。映画化の際は、舞台美術家の朝倉摂さんが初めて劇映画の美術を担当しています。今では想像出来ないような布陣です。芸術祭参加作品に相応しい出来上がりになりました。
この作品に対して、当初はほとんどの音楽評論家が無関心でしたが…。船村さんは「歌とナレーションと音楽で構成された、新しいミュージカル的なレコード。舟木君は私が作曲したバラエティーに富んだ歌に、ひた向きに取り組みベストを尽くしてくれた。出来上がりは私が期待した以上で、LPレコードとしては画期的なヒットになった。3か月の労作で疲れたが、快い疲労だった」(コロシート「歌のプリンス舟木一夫」)と記しています。
各社から映画化の話が相次ぎましたが、松山さんが所属する東京映画(後に東宝に合併)に決まりました。そして、舟木さんの相手役には内藤洋子さんが大抜擢されました。舟木さんは初の東宝系映画への出演で、内藤さんも東宝系以外の男優と組むのは初めてでした。もちろん松山さんが監督を務めましたが、「『シェルブールの雨傘』のような映画を狙った」という言葉通り、上映1時間半のうち50分が音楽という作品になりました。
このため、映画ではアルバムにはなかった6曲(2曲を舟木さん、2曲を内藤さん、残りをデュエット)が加えられました。内藤さんの歌について、船村さんは「彼女の家が鎌倉だったので、私が自宅(藤沢)にいる時は寄りなさいと言ってレッスンしました。彼女は音を伸ばすと狂っちゃうんで、ブツ切りのような歌にしたところ、これが成功したんです」と話してくれました。中でも「白馬のルンナ」はヒットしましたね。内藤さんは歌手としても注目されました。
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《舟木一夫・2023年コンサートスケジュール》
■2月16日(木) 埼玉・大宮ソニックシティ
14:00
■2月24日(金) 東京・かつしかシンフォニ
ーヒルズ 14:00
■3月1日(水) 静岡・アクトシティ浜松 14:00
■3月18日(土)~23日(木)
大阪・新歌舞伎座 シアターコンサート
14:00~16:30
■3月27日(月)~29日(水)
東京・新橋演舞場 シアターコンサート
各 14:00
■4月12日(水) 千葉・松戸森のホール21 14:00
■4月14日(金) 群馬・高崎芸術劇場 14:00
■4月25日(火) 東京・中野サンプラザホール 15:00
■5月10日(水) 岡山市民会館 14:00
■5月11日(木) 広島・上野学園ホール 14:00
■5月26日(金)~28日(日)
京都・南座 シアターコンサート 各13:30
■6月5日(月) 大阪・ふれんどコンサート
大阪・メルパルクホール
14:00
■6月7日(水) 愛知・日本特殊陶業市民会館 14:00
■6月12日(月) 東京・ふれんどコンサート
文京シビックホール・大ホール
15:00
■6月21日(水) 神戸国際会館 14:00
■6月22日(木) 大阪・梅田芸術劇場 14:00
■7月3日(月) 秋田・あきた芸術劇場ミル
ハス 14:00
■7月4日(火) 東京エレクトロンホール宮 城 14:00
■7月11日(火) J:COMホール八王子
14:00
■7月25日(火)~27日(木)
東京・浅草公会堂
25日は17:00、26日と27日は14:00
■8月7日(月) 埼玉・ウエスタ川越
14:00
■8月24日(木) 埼玉・川口総合文化センター
・リリア 14:00
■8月31日(木) 神奈川・相模女子大学グリー
ンホール 14:00
※アイエスなどから許可が出た確定分のみを掲載しています