2023年ツアーで舟木一夫が選んだ曲㉔

舟木一夫と「哀愁の夜」

～2023年コンサートツアーの選曲～

　舟木一夫さんが2023年通常コンサートの24曲目に選んだのは1966年2月にリリースされた「哀愁の夜」(作詞・古野哲哉、作曲・戸塚三博)でした。「北国の街」「東京は恋する」とともに“恋愛三部作”と呼ぶ人もいます。確かに、この3曲には①夜の街を肩寄せ合って歩いている②いずれも夜空の星を見上げている③街にはネオンや灯りがともっている―などの共通点があります。

　舟木さんは「哀愁の夜」について、「この歌をもらった時、自分はこういう歌が好きなんだと思った。メロディーラインが流行歌の構造になっていて、色気がある」と話しています。舟木さんは“好き”が高じて、古野さんの3番までの歌詞に加えて、自ら4番、5番も作詞しています。時々、コンサートでも披露してくれます。この歌は、舟木さんだけでなく舟木ファンの人気投票でも常に1位か2位になっています。

＜４番＞

窓に　もたれて　祈るように

今日も　呟く　寂しい心

あぁ　あの人も　一人の夜は

僕と　二人の頃を

想い出してくれるだろうか

＜５番＞

若さ　まかせに　春は往き

交わす瞳に　別れが　揺れた

あぁ　この歌は　二人の恋を

今も　優しく　強く

抱いて　はるかに輝く星よ

君と　見上げた　あの星空よ

　この歌はイントロ部分の舟木さんの口笛が、会場のお客さんを一気に抒情の世界=舟木ワールド=に連れて行きます。特に調子のいい時の舟木さんの口笛の響きはたまりませんね。私の記憶では、当初は舟木さん自身が口笛を吹いていなかったように記憶していますが、いつからご自分で吹くようになったんでしょうか。ご存知の方は教えてください。

　この歌も翌月27日に「哀愁の夜」(西河克己監督)として日活で映画化されています。舟木さんは「これまでの路線を変え、スーツにネクタイ、タキシードという世界観を確立させたかった」ため、初めて組む西河監督に「今の髪型をやめたいので、髪を伸ばしてやれる役を設定してくれませんか」と申し出ました。西河さんは日活から「舟木は将来性がある。ウチで押さえたいので上手く撮ってほしい」と言われたばかりで、ちょうどいいタイミングでした。

― 西河克己映画記念館に飾られているレコードジャケット ―

　結局、舟木さんの役は弁護士志望の青年ということになり、旧友の殺人容疑を晴らすために動きます。相手役は社長令嬢の和泉雅子さん。最後に事件の黒幕が和泉さんの父親と分かり、和泉さんは一人ヨーロッパに旅立つというストーリーでした。映画の出来上がりに満足した舟木さんは、日活に「自分の作品は今後全部、西河先生でやってください」と申し出たということです。

― 日活データーベース「哀愁の夜」より―

　舟木さんは歌手だけでなく映画にも本格的に出演するようになったことについて、「映画をやったことで歌詞への理解力が深まり、行間が読めるようになったし、何より自分が“動より静”の歌い手であり役者であることを、はっきり示してくれました」と語っています。“動より静”が舟木さんの基本であるとすると、“静”から始まる舟木さんのコンサートは最高潮時に“動”となって一段と盛り上がり、お芝居では後半の立ち回りなどがより大きく見えてくるんですね。