2023年ツアーで舟木一夫が選んだ曲⑱

舟木一夫と「学園広場」

～2023年コンサートツアーの選曲～

　舟木一夫さんが2023年通常コンサートの18曲目に選んだのは、1963年10月にリリースした「学園広場」(作詞・関沢新一、作曲・遠藤実)でした。「あゝ青春の胸の血は」からの括りはデビュー後2年前半までの曲であるのに対し、ラストブロックの4曲はデビュー後2年後半以降の曲で、舟木さんは明確に分けて歌っています。「花咲く乙女たち」が“ポスト・学園ソング”の始まりなんですね。

　前回記しましたように、「高校三年生」は遠藤実さんが自ら作り直したものでしたが、「学園広場」は遠藤さんと舟木さんで作り直したと言っていいかもしれません。今回紹介する逸話には舟木さんの“物おじしない性格”と言いますか、相手が先生や先輩であっても自分が正しいと思ったことは率直に話すという性格が表れています。舟木さんは繊細さと率直さを併せ持っています。

　舟木さんは1963年8月末か9月初め、遠藤さんの自宅を訪ね、遠藤さんのピアノに合わせて「学園広場」を歌いました。リズムはドドンパ。舟木さんは1コーラス目の終わりごろから違和感を覚えて歌うのを止めます。2人の間で「何か変か?」(遠藤)「変です」(舟木)「そうか、ちょっと待ってくれ」(遠藤)といった会話が続きます。舟木さんは遠藤さんの節子夫人が出してくれたカステラを食べながら待ちました。

　2階で作業していた遠藤さんは40分ほどして降りてきて、再びピアノを弾いて「舟木君、これならどう?」と聞きます。先ほどまでの4分の4のマイナーが4分の3のメジャーに切り替わっていました。もちろん、舟木さんは納得ですが、ベテランの先生がデビュー間もない歌手の意見をすぐに取り入れて作り直してくれたことに感謝とともに驚いたに違いありません。

　これより前、デビュー日が決まった直後、舟木さんはホリプロの堀威夫社長に呼ばれて、「改めて言っておくが、この世界は厳しい。年間300人以上がデビューしているが、10年選手として生き残れるのは1%にも満たない。もし歌手を断念せざるを得なくなったら、どうする?」と聞かれます。舟木さんは「僕は売れるために上京しました。だから売れます!」と答えました。堀さんには頼もしいと映ったでしょうか。

　1963年1月、東京・浅草国際劇場で橋幸夫さんの特別公演が行われた際、舟木さんの先輩歌手が持ち歌を歌わず橋さんの歌ばかり歌い、浅草国際の舞台に立てたことに感激している。舟木さんが「そんなことで嬉しいんですか」と尋ねます。「お前は何も分かっていない」と一喝されますが、舟木さんが「1年以内に僕がここでワンマンショーをやったら出ていただけますか」と言うと、「ああ出てやるよ」。これが実現しました。

　ところで、日活映画「学園広場」(1963年12月11日公開)では、当時の人気番組「アベック歌合戦」が登場し、舟木さんと松原智恵子さんが「高校三年生」と「学園広場」をデュエットするという、松原さんファンにとっては忘れられないシーンがあります。のちに松原さんにインタビューした際、「舟木さんはツイストが踊れなかったので、私が教えてあげたんですよ」と話してくれたのが印象に残っています。

　「学園広場」のB面は、A面と同じ作詞・作曲家による「只今授業中」ですが、大映映画「高校三年生」ではこの曲が挿入歌として使われ、映画「学園広場」では「高校三年生」のB面の「水色のひと」が挿入歌になっているんですね。詳細は分かりませんが、映画の公開日とレコードのリリース日などを考え、「学園広場」のPRも兼ねてこういう組み合わせになったんでしょうね。