2023年ツアーで舟木一夫が選んだ曲⑯

舟木一夫と「君たちがいて僕がいた」

～2023年コンサートツアーの選曲～

　舟木一夫さんが2023年通常コンサートの16曲目に選んだのは、1964年3月にリリースされた「君たちがいて僕がいた」(作詞・丘灯至夫、作編曲・遠藤実)でした。B面も同じ作詞&作曲家による「青春はぼくらのもの」。A面は初めて♪清らかな青春　爽やかな青春…で始まる台詞が入った曲で、舟木さんが静かに語り出すとファンからの凄い声援でした。最近はさすがに照れくさいのでしょう、台詞入りではめったに歌われませんね。

　もう一つの注目点は、同じ月にリリースされた「涙の敗戦投手／さらば古い制服よ」(作詞・丘灯至夫、作曲・戸塚三博)とともに、事実上、学生服を着た最後のジャケット写真になっていることです。6月にリリースされる「まだみぬ君を恋うる歌／ひとりになると」(作詞・丘灯至夫、作曲・山路進一)では、ラフな白い開襟シャツ姿のジャケット写真になります。デビュー1年目で“学生服よ、さようなら”です。

　この頃は映画各社が“青春路線”に乗り遅れるなと走り出します。あの東映も例外ではありませんでした。その第1作に選んだのが、舟木さんの「君たちがいて僕がいた」でした。舟木さんの共演は本間千代子さん。「恋と太陽とギャング」(1962年3月21日公開、石井輝男監督)でデビューして以来20本以上の東映映画に出演している“若いベテラン女優”でしたが、それまでの出演作はいかにも東映といった映画でした。

　すでに歌手デビューもしていた本間さんが舟木さんと初共演したのは、1963年6月に放送されたTBSテレビの「ロッテ歌のアルバム」でした。2人はその年の10月から同じTBSラジオの若者向けトーク番組「夢の青春コンビショー」(毎週土曜)で翌年3月までDJを務めました。月1回、2人で都内の学校を訪問して生徒と語り合うコーナーでは、舟木さんの母校・自由が丘学園を訪ねて「高校三年生」を大合唱しました。

　舟木さんは1964年3月1日から8日まで、東京・浅草国際劇場で初の「舟木一夫ショー」を開催しますが、その際も本間さんが特別出演。「愛しあうには早すぎて」と「純愛の白い砂」を歌いました。2人はショーの合間にこっそり浅草国際を抜け出し、近くの隅田公園(墨田区)で映画「君たちがいて僕がいた」のスチール写真を撮り、ショーが終った2日後から撮影を始めるという強行スケジュールでした。

　映画(鷹森立一監督)は1964年5月23日に公開されました。共演は学校の担任・千葉真一さん、母親・高峰三枝子さんら。3月にリリースされていた本間さんの「愛しあうのは早すぎて」(作詞・丘灯至夫、作曲・山路進一)が挿入歌として流れますが、この歌と舟木さんの「君たちがいて僕がいた」のレコードジャケットにはそれぞれの顔が一対のデザインとして背景に映っているのが印象的でした。

　2人は1964年8月1日に公開された東映映画「夢のハワイで盆踊り」(鷹森立一監督)でも共演しました。この映画のロケはハワイで行われましたが、同行者はスタッフ13人、キャスト8人、雑誌関係者6人、コロムビア関係者6人という当時では大所帯。舟木さんの所属事務所がタイアップ企画を考え、往復のパンアメリカン航空、宿舎のヒルトン・ハワイアン・ビレッジの旅費、宿泊費をタダにしたという逸話もあります。