舟木一夫と「たそがれの人」
~2023年コンサートツアーの選曲~
舟木一夫さんが2023年の通常コンサートで8曲目に選んだ曲は1965年8月にリリースされた「たそがれの人」(作詞・安部幸子、作曲・山路進一)でした。舟木さんも大好きな歌でしばしば歌われますが、舟木さん以上にこの歌を好きだったのはデビュー当時から舟木さんを担当していたコロムビアレコードのディレクター・栗山章さんでした。のちにそのことを舟木さんに伝えると、「栗山さんらしいね」と納得されていました。
栗山さんが「たれがれの人」を推すのは、山路さんの曲調もさることながら、作詞した安部さんが書く詩情豊かな詩に惚れ込んでいたのが最大の理由でした。安部さんはコロムビアの専属作詞家ではありませんでしたが、栗山さんは企画会議でも強く推して、舟木さんの“若衆もの”の第1作になる「いなせじゃないか若旦那」(1964年8月、作編曲・遠藤実/「おみこし野郎」=作詞・関沢新一、作曲・遠藤実=のB面)の作詞に抜擢しました。作詞に厳しいことで知られる遠藤さんも納得でした。
A面、B面で統一された江戸っ子イメージは、“学園もの”を歌って来た舟木さんの新生面を開くことになりました。舟木さんは当時の「週刊明星」のインタビューに対して「歌詞をもらった時には、今までにないスタイルで、歌謡曲の歌詞としてはちょっと難しいと思いました。これがハタチを過ぎたばかりのお嬢さんの作品と聞いて、びっくりしました。一度ぜひお会いしたいと思って努力しましたが、いつもスレ違いで実現していません」と答えています。
安部さんはこれを契機に、「火消し若衆」(1965年1月、作曲・遠藤実)、「木挽哀歌」(同B面、作曲・遠藤実)、「浜の若い衆」(1965年8月、作曲・山路進一)、「磯浜そだち」(同B面、作曲・山路進一)と舟木さんの“若衆もの”の作詞を続けた後、趣を変えて「たそがれの人」とB面の「夜霧のラブレター」(作曲・山路進一)にたどり着きます。しかし、これが最後の作品で、結局、安部さんは7曲の舟木作品の作詞をして終わりました。
横浜市栄区に住んでいた安部さんは学校を卒業した後、神奈川県庁に就職し電気局でタイピストの仕事をしながら石本美由起さん主宰の同人誌「新歌謡界」に所属して詩を学びました。当初は月刊誌の公募に応える形で詩を書いていましたが、島倉千代子さんの「石竹の花」や二代目コロムビア・ローズさんの「上総のふるさと」、三田明さんの「ごめんねチコちゃん」…と書いているうちに“プロの作家”と認められるようになりました。
安部さんは舟木さんの7作品のほか、本間千代子さんの「星のように花のように」や「東京のためいき」など7作品、二代目コロムビア・ローズさんの「夜の浜辺」や「母さんと」など7作品を書きあげ、計20数作品を書いています。しかし、24歳の1964年7月、突然視力を失って病院を転々としますが、原因がわからないまま9月12日に激しい頭痛に見舞われ、昏睡状態のまま夜に自宅で息を引き取りました。17日に日劇で初めて「舟木一夫ショー」(23日まで)が始まる直前でした。
安部さんはプロの作詞家デビューしてわずか半年で亡くなったということになります。薄幸の女性です。舟木さんの曲では「いなせじゃないか若旦那」だけが生前にレコード化され、残りは死後のレコード化になりました。舟木さんは週刊誌のインタビューに「お人柄を聞けば聞くほど、一度でいいからお会いしたかった」と答えています。舟木さんは「たそがれの人」を歌う時、安部さんのことを頭に描くこともあるのではないでしょうか。
24歳での夭折と言えば、「大つごもり」や「にごりえ」、「たけくらべ」などの名作を残して1896(明治29)年11月23日、肺結核のために24歳で亡くなった小説家・樋口一葉を思い出してしまいます。
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《舟木一夫2023年コンサート・スケジュール》
■2月16日(木) 埼玉・大宮ソニックシティ
14:00
■2月24日(金) 東京・かつしかシンフォニー
ヒルズ 14:00
■3月1日(水) 静岡・アクトシティ浜松 14:00
■3月18日(土)~23日(木)
大阪・新歌舞伎座 シアターコンサート
14:00~16:30
■3月27日(月)~29日(水)
東京・新橋演舞場 シアターコンサート
各 14:00
■4月12日(水) 千葉・松戸森のホール21 14:00
■4月14日(金) 群馬・高崎芸術劇場 14:00
■4月25日(火) 東京・中野サンプラザホール 15:00
■5月10日(水) 岡山市民会館 14:00
■5月11日(木) 広島・上野学園ホール 14:00
■5月26日(金)~28日(日)
京都・南座 シアターコンサート 各13:30
■6月5日(月) 大阪・ふれんどコンサート
大阪・メルパルクホール
14:00
■6月7日(水) 愛知・日本特殊陶業市民会館 14:00
■6月12日(月) 東京・ふれんどコンサート
文京シビックホール・大ホール 15:00
■6月21日(水) 神戸国際会館 14:00
■6月22日(木) 大阪・梅田芸術劇場
14:00
■7月 東京・浅草公会堂
■7月3日(月) 秋田・あきた芸術劇場ミル
ハス 14:00
■7月4日(火) 宮城・東京エレクトロン
ホール 14:00
■7月11日(火) J:comホール八王子
14:00
■8月7日(月) 埼玉・ウエスタ川越
14:00
■8月24日(木) 埼玉・川口総合文化センター
・リリア 14:00
■8月31日(木) 神奈川・相模女子大学グリー
ンホール 14:00