舟木一夫と「花咲く乙女たち」
~2023年コンサートツアーの選曲~
舟木一夫さんが2023年の通常コンサートの最初のブロックのラスト(6曲目)に選んだのは「花咲く乙女たち」(作詞・西條八十、作編曲・遠藤実)でした。1964年9月にリリースされた“作詞・西條八十&歌・舟木一夫”の最初の作品です。舟木さんにとってデビュー以来18枚目のシングルでした。西條さんとの出会いはこの後、歌手としてばかりではなく、人生の上でも大きな財産になっていきます。
舟木さんのコロムビアレコードの最初のディレクターは、まだ20代後半だった新人の栗山章さんでした。栗山さんは学生時代に日欧の近代文学にはまり、アルチュール・ランボーらを日本に紹介した仏文学者としての西條さんから多くを学んでいました。西條さんが歌謡曲の作詞活動もしていることを知っていたため、いつか機会があれば舟木さんの歌の作詞をお願いしようと考えていました。
「高校三年生」(作詞・丘灯至夫、作曲・遠藤実)が大ヒットした時、西條さんは舟木さんの雰囲気が自分の作風に合っていると思ったのでしょう。ある時、西條さんに師事していた作詞の丘さんに「おまえ、いい歌作ったな。俺にも舟木君の歌を書かせろよ」と言いました。この話を丘さんから聞いた栗山さんは、この機会を逃してはならないと考え、早速、西條さんと連絡を取り、初対面の挨拶を兼ねて新曲の作詞をお願いするため舟木さんを連れて東京・成城の西條宅に向かいました。
西條宅にお邪魔すると、舟木さんが臆することなく、「先生、ここ数年あまりお仕事をなさっていないのは、どうしてですか?」と切り出しました。栗山さんは失礼な男だなとヒヤヒヤものでしたが、西條さんは「うん、仕事をしてお金を稼いでも使ってくれる人がいなくなっちゃったから」と答え、浪費家の妻が亡くなったことを丁寧に説明しました。ホッとした栗山さんは早速、書店で見かけたマルセル・プルーストの小説「花咲く乙女たちのかげに」を挙げ、西條さんに「花咲く乙女たち」というタイトルを提案しました。
舟木さんは初対面の西條さんとのやり取りの中で、「この方の書かれる歌詞なら、絶対にお客さまに感動を与えてくださるに違いない」という印象を強く持ちました。栗山さんが提示したタイトルに対して西條さんは、“自分が若い頃、舟木君のように女性の憧れの的で書斎が贈り物の花束でいっぱいだったが、彼女たちも花のようにいつか散ってしまう…”。舟木さんに好感を持った西條さんは、そんな思いを込めて「花咲く乙女たち」を書きあげました。
この歌では、街行く乙女たちを「カトレア」や「鈴蘭」「忘れな草」などの花々に見立てています。西條さんは以前から「花物語」など少女小説シリーズを書いていたほか、1936年には自ら作詞した歌謡曲「花言葉の唄」(作曲・池田不二男、歌・伏見信子&松平晃)をヒットさせています。舟木さんも好きだったようで、2014年12月にリリースされたアルバム「トップスター昭和名曲大全集戦前編1」の中でこの歌を歌っています。
ともあれ、「花咲く乙女たち」は大ヒットし、この年のコロムビアのヒット賞に輝やきました。祝賀パーティーの会場には大御所の古賀政男さんが先に着席していましたが、西條さんが遅れて姿を見せるとすっと立ち上がり、「ご無沙汰しております」と深々と頭を下げて挨拶しました。舟木さんはこの光景を見て、西條さんの存在の大きさを改めて思い知らされたと言います。
「花咲く乙女たち」の大ヒットを受け、同名の日活映画の打ち合わせ、撮影が1964年の大晦日にスタートしました。撮影は年をまたいで舟木さんの故郷・愛知県一宮市の隣の尾西市などの“織物の町”を中心に展開されました。監督は舟木さんが映画「仲間たち」(1964年3月14日公開)で知り合った柳瀬観さんでした。この映画で柳瀬さんと気が合った舟木さんは、「花咲く乙女たち」のために20日間のスケジュールを空けて臨みました。
舟木さんの地元ということで、ロケ現場は連日、大型バスで見学に来る女子高生や“本物”の女子工員らでいっぱい。舟木さんの学友も多数見に来ていて、「自分の方が引いてしまって、どう距離を取っていいのか分からなかった」(舟木さん)。私が現場を訪れた約10年前、映画に登場する「すみれ寮」は製絨会社の寮として使われていましたが、会社の方は「毎日午後11時過ぎからの撮影が多かったが、真夜中でも大変な見物人で、多くの警察官が出て規制していた」と当時を懐かしんでいました。
映画は1965年1月24日に公開されました。共演は三田明さんの日活映画「美しい十代」(吉村廉監督、1964年2月8日公開)で映画デビューしたばかりの17歳の西尾三枝子さん、半年ぶりに再会した山内賢さん、ザ・スパイダースの堺正章さん、田代みどりさん、伊藤るり子さんら。舟木さんはこの作品から映画にも本格的に取り組むようになり、次の「北国の街」(柳瀬観監督、1965年3月20日公開)が初主演映画になりました。
西條八十さんと舟木さんのことについては、まだまだ書き足りませんが、「絶唱」や「夕笛」のところで改めて書くチャンスがあるかと思いますので、詳しくはそちらに譲ります。
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《舟木一夫2023年コンサート・スケジュール》
※新しく決まったもの、舟木さんが「浮舟」
に書かれたものなどを追加しています。
■2月16日(木) 大宮ソニックシティー
14:00
■2月24日(金) 葛飾シンフォニーヒルズ 14:00
■3月1日(水) アクトシティ浜松 14:00
■3月18日(土)~23日(木)
大阪・新歌舞伎座 シアターコンサート
14:00~16:30
■3月27日(月)~29日(水)
東京・新橋演舞場 シアターコンサート
各 14:00
■4月12日(水) 松戸森のホール21 14:00
■4月14日(金) 高崎芸術劇場 14:00
■4月25日(火) 中野サンプラザホール 15:00
■5月10日(水) 岡山市民会館 14:00
■5月11日(木) 広島・上野学園ホール 14:00
■5月26日(金)~28日(日)
京都・南座 シアターコンサート 各13:30
■6月5日(月) ふれんどコンサート
大阪・メルパルクホール
14:00
■6月7日(水) 日本特殊陶業市民会館 14:00
■6月12日(月) ふれんどコンサート
文京シビックホール・大
ホール 15:00
■7月 東京・浅草公会堂
■6月21日(水) 神戸国際会館 14:00
■6月22日(木) 梅田芸術劇場 14:00