舟木一夫と「青春の鐘」
~2023年コンサートツアーの選曲~
舟木一夫さんが2023年の通常コンサートの2曲目に選んだのが、1969年1月にリリースされた「青春の鐘」(作詞・丘灯至夫、作曲・古関裕而/B面は「幸せを抱こう」)です。私は学生時代に落ち込んだ時に随分励まされた好きな歌ですが、舟木さん自身も認めているように、当時は「歌唱法に舟木一夫らしさがなくなってきた」という声が多かった曲でもあります。“寒い時代”が忍び寄って来ていたんですね。
この曲で注目しなくてはならないのは、作曲が古関裕而さんということです。一般にリリースされた舟木さんの楽曲の中で、古関さんが作曲したのは意外にもこの曲と「あゝ鶴ヶ城」(作詞・野村俊夫)の2曲だけだと思います。そういう意味では記念的な作品なのですが、この頃の舟木さんは仕事面の不調だけでなく家庭的にも“家族の崩壊”の足音が聞こえてきていて、歌を“伝える力”が弱かったのかもしれません。
この頃のことを、舟木さんはのちに「(前年の)1968年は舟木一夫が思い切り暗転するスタートの年で、歌の企画もロクなものが出てこず、自分の歌もズタズタに崩れ、ドロ沼に入り込んでいった」とまで語っています。改めて「青春の鐘」のレコードを聴き直してみるとなるほどという思いです。また、舟木さんは個人的にも1969年1月に東京・祖師谷に豪邸を新築し、家族全員で暮らしていた代沢の豪邸からマネジャーらを連れて抜け出しています。
長年の夢を叶えるかのように、故郷・愛知県一宮市萩原町から家族全員を呼び寄せ、家族水入らずの生活を続けていましたが、1年、2年…経ってくるとギクシャクするようになってきました。舟木さんに対して、家族はかつての「上田成幸」ではなく「スター・舟木一夫」として見るようになり、舟木さんのフトコロをあてにするようになってきたのだといいいます。父親も例外ではありませんでした。
ところで、舟木さんは古関さん作曲の歌をもう1曲歌っています。一般にリリースされたレコードではなく、どこからか依頼されて制作する「委託盤」と呼ばれていたもので、1970年8月1日に初めて開催された古関さんの故郷・福島県福島市の夏を彩る「福島わらじまつり」を盛り上げるために制作された「わらじ音頭」(作詞・茂木宏哉、補作・丘灯至夫)です。この歌は舟木さんと加賀城みゆきさん(故人)とのデュエットの形になっています。
ソノシートの形態を取っており正確な制作年月日は分かりませんが、古関さんが関係者にわざわざ「囃子ことばの部分は楽譜の音程に関係なく、シュプレヒコールのような掛け声ではやし立ててほしい。景気よく掛け声をかけて下されば良い」という手紙を残すほど力を入れていました。しかし、当初の「わらじ音頭」が使われたのは1998年まてで、1999年からは他の歌手による「平成わらじ音頭」に代わっているということです。
「青春の鐘」は日活で映画化され、1969年1月11日に公開されています。監督はテレビドラマ「雨の中に消えて」でも数話を監督した鍛冶昇さん、脚本は倉本聰さん、共演は松原智恵子さん、和田浩治さんら。これは歌がヒットしたのを受けて…という“歌謡映画”の形ではなく、映画の公開とほぼ同時のリリースです。私たちにはそれほどまでにと思える話ですが、舟木さんはのちに「歌だけじゃなく、映画もお客さんの先が見えてきている時期」と語っています。
舟木さんによると、「青春の鐘」というタイトルを見た時、「今更また“青春”なのかと思い、自分が主演の映画もこれが最後になるだろうと予感していた。この映画でコーちゃん(和田浩治)ととても仲良くなったというプラスの面もあったが、舟木一夫による日活最後の映画としてはもう少し骨格のあるものをやりたかった」と振り返っています。
舟木さんはこの映画の後の主演作は1969年公開の松竹映画「永訣 わかれ」(共演は大空真弓さんら)と「いつか来るさよなら」(共演は光本幸子さんら)だけになります。歌も1971年9月にリリースした「初恋」(作詞・島崎藤村、作曲・若松甲)以外はヒット曲らしいものが見当たりません。そういう意味では「青春の鐘」は映画、曲ともに舟木さんの中で“分岐点になる作品”と呼んでいいと思います。
そんなことを振り返りながら、今の舟木さんの「青春の鐘」を聴くと、「これまで何十回と聴いてきた中で、78歳の舟木さんが歌う『青春の鐘』が一番いい!!」と感じるのは私だけでないと思いますが、いかがでしょうか? 今更ではなく今だからこそ“青春”に意味があるんです。
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《舟木一夫2023年コンサート・スケジュール》
■2月16日(木) 大宮ソニックシティー
14:00
■2月24日(金) 葛飾シンフォニーヒルズ 14:00
■3月1日(水) アクトシティ浜松 14:00
■3月18日(土)~23日(木)
大阪・新歌舞伎座 シアターコンサート
14:00~16:30
■3月27日(月)~29日(水)
東京・新橋演舞場 シアターコンサート
各 14:00
■4月12日(水) 松戸森のホール21 14:00
■4月14日(金) 高崎芸術劇場 14:00
■4月25日(火) 中野サンプラザホール 15:00
■5月10日(水) 岡山市民会館 14:00
■5月11日(木) 広島・上野学園ホール 14:00
■5月26日(金)~28日(日)
京都・南座 シアターコンサート
各13:30
■6月7日(水) 日本特殊陶業市民会館 14:00
■6月21日(水) 神戸国際会館 14:00
■6月22日(木) 梅田芸術劇場 14:00