先輩とのエピソード

 

 きょうは舟木一夫と3人の先輩俳優・役者についての面白いエピソードを綴る。

 

 <萬屋錦之介>

 舟木が萬屋錦之介と初共演を果たしたのは、1971(昭和46)年のNHK大河ドラマ「春の坂道」(原作・山岡荘八)。徳川3代の将軍に仕えた柳生宗矩の生涯を描いたもので、錦之介が主演。舟木は家光と3代将軍の座を争う徳川忠長を演じた。錦之介とは初共演だが、初対面ではなかった。

 

― 1955年撮影 中村錦之助 Wikipediaより ―

 

 舟木が東映映画「一心太助 江戸っ子祭り」(1967年4月、監督・山下耕作)を撮った時、錦之介が「一心太助」をすでに何本か撮っていたため、“先輩太助&後輩太助”として雑誌の対談が組まれ知り合った。その席で舟木が「何か分からないことがあればお電話してもよろしいでしょうか」と頼んだ。それ以来、舟木は錦之介から時代劇のあれこれを教わった。時代劇の“先生”は長谷川一夫大川橋蔵、そして錦之介ということになる。

 

― 萬屋錦之介のサイン ―

 

 ある時、2人が共通の京都の定宿「みゆき旅館」で、舟木がトイレから廊下まで至る所に小さな文字を書き連ねた紙が貼ってあるのを見つけた。風呂場の紙は水に濡れないようにビニールでくるんであった。何事だろうと女将さんに聞いたら、「今、お泊りになっている錦之介さんが映画の撮影中で、覚えなきゃいけないセリフをこうやって貼ってるんですよ」と教えてくれた。

 

 ちなみに、この「みゆき旅館」は、雑誌「平凡」が舟木のデビュー2曲目の「修学旅行」の発売に合わせて企画した「舟木クンの修学旅行、京都の秋」で編集部員とともに泊った旅館。美空ひばり高倉健チエミ夫妻(当時)も定宿にしていた旅館でもあった。舟木はこの時の出来事、女将の応対などでみゆき旅館がすっかり気に入り、京都で仕事がある時は必ず泊っていた。

 

 <辰巳柳太郎>

 舟木は「忠臣蔵異聞 薄桜記」を何回か演じているが、初演は舟木が企画した1971年8月の明治座公演。脚本家の土橋成男を説得して実現したものだが、原作者の五味康祐に了解を取るため、共演の光本幸子と東京・練馬の自宅まで行った。そのうえ、片腕での刀裁きなどの演技指導を受けるために東京・新橋演舞場に出演していた新国劇の辰巳柳太郎の楽屋を訪ねた。

 

― 1951年撮影 Wikipediaより ―

 

 辰巳は新国劇で舟木が演じる主役の丹下典膳を演じていた先輩で、豪放磊落な性格で知られていた。初対面の舟木は挨拶代わりのお酒を持って楽屋にお邪魔して頭を下げると、辰巳は「あんたが舟木君か。何か困ったことがあるらしいな。何を知りたいのかね」。辰巳はいつものように上半身裸のままだった。

 

 舟木が丹下典膳について教えて欲しいところを具体的に説明すると、辰巳は弟子に浴衣と木刀、懐紙を持ってこさせた。浴衣を着ると、弟子を相手に右腕一本で刀を抜いて斬りつけ懐紙でぬぐって鞘に納めた。この後、舟木が辰巳の相手を務めたのに続き、辰巳の弟子を相手に同じ動作を繰り返した。辰巳は「今の感じを忘れるな」と舟木に伝えた。舟木が出て行こうとすると、辰巳は「俺は飲めねぇんだよ。今度来るときは虎屋の羊羹にしてくれ」と言った。

 

 

 <片岡千恵蔵>

 舟木が「一心太助 江戸っ子祭り」を撮っている時のこと。あるシーンのリハーサルが終わると、本来ならすぐに本番に入るところだったが、監督の山下耕作が「ここで30分休憩する」。舟木がどうしたのかと思いながらセット内の椅子に腰を下ろしてタバコを吸おうとすると、目の前にスーツにネクタイ姿の御大・片岡千恵蔵が立っていた。市川右太衛門長谷川一夫らとともに「時代劇六大スタア」と呼ばれている大物。監督・山下はそんな千恵蔵の姿が見えたので急きょ休憩にしたに違いない。

 

― 1955年撮影 Wikipediaより ―

 

 少年時代から時代劇を観ていた舟木にとっても、まさに“御大”。すぐに挨拶しようとしたが、その前に千恵蔵のほうから「このたびは娘がご迷惑をおかけしまして。つまらないものですが…」と言って、大きな紙袋の手土産を差し出した。舟木は恐縮しきりだった。実は、千恵蔵の長女・千恵が舟木の大ファンで、千恵蔵のマネジャーがセットして舟木との対面を実現させていた。千恵は当然大喜びだった。この話を聞いた千恵蔵が舟木に挨拶せねば…となったのだ。

 

―『千石纏』(1950年) 右が千恵蔵、左は市川右太衛門 ―

 

 驚いたのは現場にいたスタッフたち。あの御大が舟木に頭を下げている!? スタッフには休憩がかかっていたものの現場を離れられず、その何とも不可解な光景を見入るばかりだったという。

 

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