銭形平次

 

 アイエス社長の伊藤喜久雄は、舟木一夫の1か月座長公演を復活させるために全国の劇場に働きかけた。耳にタコが出来るくらい営業・マーケティング活動を行ったため、各劇場のプロデューサーからは“耳タコ社長”と呼ばれた。最初に取り上げてくれたのは名古屋・中日劇場だった。「16か月に1回の割でやりましょう」ということになり、1993(平成5)年7月3日から26日までの1か月公演が実現することになった。伊藤は当時、中日劇場に対してこれ以上ないほどの深い感謝の気持ちを語っていた。

 

― 神田明神にある銭形平次の碑 ―

 

 芝居の演目は「銭形平次」。久しぶりの1か月公演で、舟木は6年前に亡くなった先輩・大川橋蔵が実際に使ったものを身につけて舞台に立ちたいと思った。小道具さんに聞くと、投げ銭と矢立てを改造した銭をぶらさげる小道具を保管してあるという。舟木は早速、橋蔵夫人の真理子に電話して使用許可を取った。舟木の発想、思いつき、それを実行に移す速さはまさに“これぞ舟木”と言えるものだ。「銭形平次」を含め舟木の娯楽時代劇に寄せる強い思いはまた改めて書きたいと思っている。

 

 

 

 

 それにしても舟木は「銭形平次」とどれだけ関りを持ってきたのか。フジテレビの「銭形平次」に最初に出演したのは1966(昭和41)年4月19日に放送された第3話「謎の夫婦雛」で秋月新太郎役。その後も5回出演し、1984年4月4日の最終回(888話「ああ十手ひとすじ!!八百八十八番大手柄」)には立花左馬之介役で出ている。主題歌「銭形平次」がリリースされたのは1966年5月。NHK大河ドラマの出演記念曲としてA面B面として同時にリリースされた「敦盛哀歌」と二つ折りの両面ジャケット(=両A面)になっているのが面白い。日本コロムビアなどが検討を重ねた結果、異例の形になったという。

  

 

 映画は1967年10月10日に公開された「銭形平次」に立花数馬役で橋蔵と共演している。テレビも映画も橋蔵が声をかけてくれ出演が実現した。舞台の「銭形平次」を最初に演じたのは、私のメモに間違いがなければ、1992年5月28日から6月30日まで芸能生活30周年記念として全国30会場を縦断して行った特別公演。その後の公演の日時・場所などをは正確に表示することはできないので、手元にある「銭形平次」公演の何枚かのチラシを参考に載せておく。

 

 

 ところで、舟木の座長公演にしばしば名を連ねる俳優・丹羽貞仁は橋蔵の次男。1969年5月3日、京都生まれ。身長は177㎝で、見栄えのする俳優だ。長谷川一夫の次女・稀世、孫娘・かずきとともに舟木の舞台で共演することも多い。舟木は長谷川家、大川家の親子二代、三代にわたって舞台で共演しているきわめて稀有な役者でもある。丹羽は2014年10月26日付東京新聞の「家族」の欄で橋蔵や真理子ら家族について次のように話している。橋蔵を知る上で貴重な発言なので、主なところを抽出して紹介する。

 

 父は家族の団らんを大事にし、夕方に仕事が終わる時は母、兄と一緒に父の帰りを待って夕食を共にした。夜中の撮影の時は「先に食べていなさい」という連絡が来た。父は仕事を家に持ち込むタイプで、その日の撮影の話を母にずっと聞かせ、気になる役者の舞台は母に見に行かせ、母が見た印象をメモでもらっていた。テレビでは「必殺仕事人」を常に意識していて、主題歌を聞いて「時代劇なのに金管楽器か」と驚いていた。西部劇も好きで、ピストルを指でくるくる回してホルダーに入れる仕草を見て十手を回せるように改良させたりしていた。

 

 

 

 丹羽には私も夕刊フジの「ぴいぷる」欄でインタビューしている(上の紙面参照)。東京新聞の2年前の2012年8月16日付だ。この中でも橋蔵との食事について、「学校での出来事など2人の息子の話題に合わせることはなく、365日ずうーっと母・真理子を相手に撮影、役者、衣装、演出プランなど仕事の話ばかりしていた」と話している。山田洋次監督の映画「ダウンタウン・ヒーローズ」でテビュー。そのことを伝えたスポーツ紙の記事が松竹のプロデューサーの目に留まり、田村正和の舞台「乾いて候」に共演したのをきっかけに、様々な舞台に出演するようになった。

 

 丹羽はインタビューの中で舟木にも触れ、「舟木さんには28年間(インタビュー当時)、父の命日には欠かさず花を届けてもらっています」と答え、「父の見えないご縁をいただいたのがきっかけで役者の道を歩ませていただいていると思っています。本当にありがたいことだと感謝しています」と語っている。丹羽が話しているように、舟木は橋蔵以外にも“大切な人”の命日には必ず花を送り続けている---。

 

 

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 舟木一夫さんの写真集「60th/77age」(5000円)が好評発売中です。舟木さんによると、昨年12月12日の77歳の誕生日から今年2、3月にかけて撮り下ろした“Gさんの写真集”ということです。

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