玉置宏

 

 司会者の玉置宏1934(昭和9)年1月5日、神奈川県川崎市の生まれ。この年に生まれて活躍した芸能人が多かったことから、愛川欽也長門裕之が中心になって「昭和九年会」を結成し、毎月9日に藤村俊二が経営するワインバーで例会を開いていた。玉置も熱心な会員だった。玉置は明治大学商学部を卒業後、1956年文化放送に入社。同社第1号の契約アナウンサーになったが、入社後に歌謡曲について教えてもらっていた4歳年上の歌手・三橋美智也の勧めで2年後にフリーに転身し、TBSテレビの「ロッテ歌のアルバム」の司会に抜擢された。

 

 

 舟木一夫との出会いは、1963年6月5日のデビューの2か月ほど前にホリプロのマネジャー・阿部勇が現場に慣れさせるために東京都文京区の文京公会堂で行われていた「ロッテ歌のアルバム」の本番会場に舟木を連れてきた時だった。玉置は舟木が「よろしくお願いします」とはにかむように挨拶した笑顔からこぼれた白い八重歯が印象的だったという。舟木はデビュー後、初めて出演したテレビ番組がデビュー4日後の「第262回ロッテ歌のアルバム」だった。こまどり姉妹北原謙二との共演だった。これも2人のめぐり合わせだ。

 

 玉置はこの番組で1958年5月4日の第1回放送から1977年8月7日の1000回放送まで司会を務めた。以後は同局のアナウンサー・小島一慶らに引き継がれ、1979年9月30日まで続いた。第2回放送から使った「1週間のごぶさたでした」という台詞は、「昭和九年会」の仲間で「あーあ、いやんなっちゃった」のウクレレ漫談で一世を風靡した牧伸二の師匠・牧野周一がラジオ東京の「素人寄席」で時々使っていた台詞の受け売りだった。

 

― 玉置宏が実際に使っていた台本の数々 ―

 

 当時、日本コロムビアに所属する歌手の歌謡ショーの司会は、東京の大劇場はコロムビア・トップ&ライト、地方公演は青空東児青空千夜・一夜ら“青空一門”が受け持つという不文律があったが、舟木は玉置と初対面から相性が良く、1964年3月に東京・浅草の国際劇場で行った初のワンマンショー以来、2010(平成22)年2月に玉置が亡くなる直前まで舟木の大舞台の司会を務めている。浅草国際での司会について、玉置は自著「玉置宏の昔の話で、ございます」の中で概略以下のように記している。

 

 司会をコロムビア専属の青空一門にすると、せっかくの新鮮さが薄れてしまう。そこで、私に司会の話が回ってきた。(中略)コロムビア所属の歌手の司会は「青空一門が仕切る」という不文律があります。勝手に受けるわけにはいきませんから、トップ師匠に相談しました。すると「何をいまさらくだらねえこと言ってやがる。お前が青空一門の客分になっちまえば、とやかく言われる筋合いはねえ」。そのひと言があって、以後の舟木のステージの司会のほとんどを玉置が務めることになった。

 

 

 司会以外で面白い交友録がある。舟木のデビュー前からの音楽指導者はゲイポップス・オーケストラのバンドリーダー・チャーリー脇野。チャーリーは大の落語好きでもあった。舟木の成人式のお祝いに玉置と2人で10万円ずつ出し合って、圓生師匠を呼ぶことにした。東京・新橋の料亭に高座も作って20人ぐらい集め、新宿の末広亭に出ていた圓生師匠を料亭に連れてきた。舟木を中央に「妾馬」を40分くらい演ってもらった。舟木よりも玉置らのほうが興奮していたという。これにはまだ続きがある。

 

 後日、成人式の2次会ということで、中野新橋の料亭に芸者衆を交えて華やかな宴会が行われた。「童貞の舟木」を何とかしようという玉置らの仕掛けだった。舟木の周りには綺麗どころが次々と入れ替わり、カタブツの舟木も気になりだしたころに“ブルーフィルム上映会”まで行った。玉置が後で聞いたところ、舟木についた芸者が大変な舟木ァンで「ああいう先輩に感化されてはダメ。イメージが壊れてしまうから今日は何もしないで帰って、今度はひとりで来て私を呼んでちょうだい」という一幕があったという。

 

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 2000年10月から橋幸夫、舟木、西郷輝彦の「御三家」が30年ぶりにそろって全国100か所で「御三家メモリアルコンサート」を行いましたが、司会はもちろん玉置さんでした。玉置さんの「高校三年生」のナレーションは「にきびも出ていた けんかもした 勉強なまけて 遊んでばかり けれども 夢があったじゃないか 未来の希望があったじゃないか」。玉置さんは2010年2月11日、76歳で亡くなられました。どの新聞の書き出しも「『1週間のごぶさたでした』の名調子で知られた玉置宏さんが……」でした。

 

 

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 舟木一夫さんの写真集「60th/77age」(5000円)が好評発売中です。舟木さんによると、昨年12月12日の77歳の誕生日から今年2、3月にかけて撮り下ろした“Gさんの写真集”ということです。

 各コンサート会場で販売されるほか、通信販売も行われています。問い合わせはスクーデリア・ユークリッド通販部☎03-3447-3521(平日11時~18時)です。