船村徹㊤

 

 1980(昭和55)年代の舟木一夫の公演、テレビ出演などについて振り返ってみる。1980年2月⇒東京・日劇で公演「絶唱!舟木一夫」(共演・なべおさみ)、1982年11月⇒東京・郵便貯金ホールでコンサート「酔って、SINGER」、1983年9月⇒フジテレビ「笑っていいとも!」のテレフォンショッキングに出演、1984年4月⇒フジテレビ「銭形平次」第888話(最終回)に「立花左馬之介」役で出演、1988年4月⇒宮城・仙台放送の「ルック!202」にメーン司会者としてレギュラー出演…。要するに1年に1回前後の出演で、シングル・アルバムのリリース数と並んで極端に少なくなり、“寒い時代”を象徴している。

 

―  amazon.co.jpより ―

 

 そんな“寒い時代”のある日、恩師の作曲家・船村徹から電話があった。久しぶりの挨拶もなく、いきなり「舟木君、人づてに聞いたんだが、君、歌をやめるんだって。そんなの君の自由で、どっちでもいいんだけど、君のために作った俺の大好きな『夕笛』は誰が歌ってくれるんだい」。言葉を返す余裕もないまま、電話は切られた。舟木は突然、脳天をぶち割られたような衝撃を覚え、仕事、人生への甘えを一撃のもとに吹っ飛ばされた。プロ歌手としての自分を恥じた。と同時に、こんな姿でステージに立ったら、お客さんから大ブーイングとともに石が飛んでくるのではないかという思いも頭をよぎった。

 

― 船村徹のサイン ―

 

 私は舟木が芸能生活50周年記念の年に船村に当時の話を改めて聞いてみた。船村ははっきり覚えていた。「思い出しますねぇ。私も若いころでしたからね。率直にそう思ったので、そう言ったまでです。彼は籠ってる性格があってね、書き手としては、彼のために書いた作品は大事にしてもらわなくては困ると言いました。私は歌い手のいいところを探して作品をまとめようとするわけですから、その人その人の個性に合ったものを作っていくんですね。舟木君もその一人であったわけです」。いかにも船村らしい発言だった。「懐かしいねぇ」とも言った。

 

 

 やはり“寒い時代”のある夜、帰宅のためにタクシーに乗ると、舟木一夫だと気づいた運転手が「私は学生時代に舟木さんの大ファンでした。レコードもたくさん持っています。乗ってもらうだけで大満足です」と言って、どうしても料金を受け取らずに走り去った。後日、自宅に戻ると、舟木の古いレコードが届いていた。妻・紀子によると、「1週間前にあなたを乗せたというタクシーの運転手さんが見えて、そのうちに取りに来ますからこれにサインしておいて下さいって置いていかれましたよ」ということだった。その頃の舟木には有難く嬉しい話だった。

 

 

 ちょうどその頃、舟木にとっては“決定的”なことがあった。小学4年生になった長男・純と一緒に風呂に入った際、純に「何か欲しいものはあるか。あったら言ってみな」と聞いてみた。どうせファミコンのたぐいではないかと思っていたら、純は「自分の部屋」と答えた。事務所の借金の返済のために世田谷区祖師谷の邸宅を明け渡す際に、純が門のところで「もう僕んちじゃなくなるんだね」と言ったことが頭に浮かんだ。舟木は息子にこんなことを言わせる自分に無性に腹が立った。そして、2年後に純が中学に入る時までには必ず部屋を作ってやろうと心に誓った。復活、再起に向けて肩を強く押されることになった。

 

 

                   ◇

 

 舟木さんはスポーツニッポンの連載「我が道」で、船村さんからかかってきた突然の電話について次のように書いている。

 

 先生らしい物言い。ぶっきらぼうにも聞こえますが、その裏にある深い愛を感じました。ボクにとって同じく恩人である遠藤実先生はレコーディングの際、「君の声が生きるように書いてきたよ」と仰るのに対し、船村先生は「君が歌えない歌は書いてこないよ」。表現の仕方は全く違っていても、お二人とも「君の音域も声の質も分かった上で書いてきた」という思いは同じでした。

 

 そして、「船村先生は大作曲家であり、名アレンジャーでもありました。僕に書いてくれた『夕笛』などあのころの作品は全て先生がアレンジしていました。そんな偉大な方とボクはウマが合っていましたね」とも。舟木さんはどの歌手よりも編曲者=アレンジャーへの評価が厳しい方だと思います。今のステージにはあのヒゲの作曲家・編曲家の杉村俊博さんの存在が欠かせません。確かに杉村さんも名アレンジャーです。意気がピッタリのお二人だと思いますね。

 

音譜 音譜 音譜

 

 

 

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