長谷川一夫

 

 舟木一夫と長谷川一夫の出会いは1964(昭和39)年のNHK大河ドラマ「赤穂浪士」。当時、舟木は20歳、長谷川は56歳の大ベテラン。舟木はスポーツニッポンに連載した「我が道」の中で、「普通なら近づくことさえ気後れしそうですが、年齢が離れすぎていたことと、同じ申年生まれという勝手な親近感から懐に飛び込んでいきました」と語っている。子供の頃からスクリーンでその姿を見慣れていたこともあったんだと思う。挨拶の第一声は「初めての時代劇で何も分かりません」だった。いかにも舟木らしい。

 

― 大河ドラマ 赤穂浪士 NHK ARCHIVESより ―

 

 長谷川は林与一の祖父・林長三郎の部屋子として歌舞伎界に入った経緯から、林を“付き人”として大事に扱っていた。そんな林に「あの子(舟木)、時代劇は初めてのようやから、困ってたら教えてあげてや」と指示し気を配ってくれた。そのこともあって、林は自分の出番でもないのにわざわざ現場に残って舟木の演技を見てくれたという。林は舟木の2歳上とほぼ同年齢のうえ、時代劇好きの舟木が子供の頃に林の映画も観ていたため話題が尽きず、これがきっかけで親しくなっていった。

 

 

 舟木は明治座の公演を通じて役柄に見合う顔を作るには自分で化粧して作っていかないといけないことを学んだ。実際の化粧法やカツラのことなどの教えを乞おうと、長谷川が出演中の東京宝塚劇場に出向き楽屋に入れてもらった。長谷川は舟木がスーツ姿で正座しているのを確認し、黙って鏡に向かって化粧を始めた。開演前に「そいじゃあね、行ってくるから」と言って出ていった。後で弟子が「先生はどんな方でも『顔を作るから、ごめんね』と言って楽屋から出て行ってもらうんですが…」。舟木の行為は芝居の世界では絶対にしてはいけないことだった。

 

― 長谷川一夫のサイン ―

 

 舟木はその後も月刊誌「近代映画」の時代劇役者特集号を探し出しては化粧とカツラの研究を続けるとともに、長谷川から引き続き化粧方法について教えを受けていた。「我が道」によると、舟木と長谷川は歌番組で共演したこともあった。長谷川がモノマネ番組に出演して「高校三年生」を歌うことになり、舟木に歌っている間は横についていてほしいと依頼した。リハーサルで長谷川から「歌い出しのタイミングで肩をちょんと叩いてくれる?」と言われ、本番も指示通りにやってうまくいったという。

 

 そんな長谷川との縁で長谷川の次女で女優・長谷川稀世、その娘の女優・長谷川かずきと三代にわたり、舟木の座長公演で共演することになる。稀世は舞台の娯楽時代劇というものをよく知る貴重な存在で、葉山葉子とともに舟木世代が主役を演じる際に相手役が出来る数少ない存在だという。そんな稀世は舟木について後に「これだけ時代劇を愛してお芝居が出来る人はいません。こんなに長くお付き合いが出来ているのは、彼の人間性そのものです」と語っている。

 

― 大川橋蔵のサイン ―

 

 舟木は長谷川だけでなく、大川橋蔵からも学ぼうと1日休みを取って、橋蔵が公演中の大阪・梅田コマ劇場まで出向いた。舞台がはねた後、ふぐ屋で「舞台化粧の基礎を教わりたい」と申し出たら、橋蔵は「それを役者に聞いちゃいけないよ。失礼になるから。盗んで覚えるんだ」と舟木に注意しながらも、化粧のイロハを教えてくれた。「我が道」によると、舟木が忘れられない橋蔵の言葉がある。「長谷川先生が敷いた舞台の娯楽時代劇という線路を引き継いで、どこまで延ばしていけるかに懸けてるんだよ」。舟木もそれをしっかり継いでいる。

 

 

 

                   ◇

 

 大川橋蔵さんと舟木さんの長い付き合いの歴史については、奥様の真理子さん、次男で俳優の丹羽貞仁さんの話も織り交ぜながら書いてみたいと思っています。さらに舞台の娯楽時代劇については、舟木さんの情熱も含めて改めて詳しく述べたいと考えています。

 

音譜 音譜 音譜

 

 

 

 舟木一夫さんの写真集「60th/77age」(5000円)が好評発売中です。舟木さんによると、昨年12月12日の77歳の誕生日から今年2、3月にかけて撮り下ろした“Gさんの写真集”ということです。

 当面は各コンサート会場で販売し、今月20日(水)から通信販売されます。20日以降の問い合わせは、スクーデリア・ユークリッド通販部☎03-3447-3521(平日11時~18時)です。20日前には開設しておりません。