舟木一夫号
舟木一夫は1964(昭和39)年3月1日から8日まで、東京・浅草国際劇場で初のワンマンショーを開いた。浅草国際か日劇(日本劇場)でワンマンショーを開くことが一流の証と言われた時代に、舟木はデビュー以来8か月余りで実現した。ゲストは本間千代子、堺正章ら、司会は玉置宏、指揮は遠藤実。開催前に舟木はコーラスグループのモアナ・エコーズに「先輩、1年と3か月になってしまいましたが約束通り出ていただけますね」と冗談交じりに出演依頼すると、先輩らは「お前はきついなぁ」。今度はしっかり持ち歌を歌ってもらった。
― 当時の浅草国際の舟木一夫ショーのパンフレット。真ん中が初めてのワンマンショー ―
これより2か月前。ワンマンショー開催のニュースを知った舟木の故郷・愛知県一宮市の後援会員からニュースを報じた「一宮タイムス」や東京のホリプロに「いくらでも払うから切符を確保して!」という懇願や問い合わせが殺到。とりわけ一宮市は有数の毛織物生産地で約6000の繊維会社に8万5000人が働いており、地元後援会員の6割が女子中・高校生、残りの4割が繊維会社に勤める女子工員。その女子工員らが「行かせてくれないと会社をやめます」と訴えたため、地元後援会長の高橋猛らが国鉄と交渉を始めた。
その結果、今では考えられないことが起きた。なんと、国鉄が尾張一宮駅から東京駅まで特別列車を走らせるというのだ。「週刊平凡」(3月12日号)によると、3月1日午前9時3分、12両編成の特別列車“舟木一夫号”は尾張一宮駅を発車。乗客は5000人以上のツアー応募者から選ばれた1030人。各車両の窓に「舟木一夫号」のステッカーが貼られ、車内は舟木の写真と後援会旗、千羽鶴などで装飾されていた。まもなく社内に「おはようございます。舟木一夫です。僕のために感激です」というテープ。浜松を過ぎると前部車両から「高校三年生」の歌声が流れ、次々に後部車両に流れて大コーラスになった。
「舟木一夫号」は午後3時23分、東京駅14番ホームに到着。一行は丸の内中央口前で待機中の19台の観光バスに乗り換え、なんとなんと警視庁のパトカーの先導で第2回目のショーの開演時間ギリギリの3時58分に浅草国際に滑り込んだ。警官隊50人が警備する物々しい雰囲気だった。会場は定員3000人のところ立ち見客もいて120%の入り。舟木は新曲の「君たちがいて僕がいた」など17曲を歌い、8回の衣装替えを行った。会場には色とりどりの紙テープが乱れ飛び、楽屋を埋め尽くした花束はトラックで運び出された。
舟木のワンマンショーに本間千代子がゲスト出演したのは、やはり青春路線強化を打ち出していた東映が舟木&本間コンビでは初めての「君たちがいて僕がいた」の映画化を決めていて、そのPRも兼ねていた。ショーで本間は「愛しあうには早すぎて」と「純愛の白い砂」を歌っている。2人はショーの合間にこっそり浅草国際を抜け出し、近くの隅田公園(墨田区)で映画のスチール写真を撮り、ショーが終わった2日後から撮影を始めるという強行スケジュールだった。とにかく当時は何でも凄い!!としか言いようがない。
― 「君たちがいて僕がいた」のロケ地 小田原 ―
舟木と本間は前年6月にTBSテレビの「ロッテ歌のアルバム」で初共演し、10月からは同じTBSラジオの若者向けトーク番組「夢の青春コンビショー」(毎週土曜放送)で39年3月までDJを務めた。番組の中で月1回、2人が都内の学校を訪問し生徒たちと語り合うコーナーがあって、1回目に舟木の母校・自由が丘学園を訪ねている。生徒たちから「先輩、必ず日本一の歌手になってください」と激励を受け握手を交わした。最後は校庭に集まった約1000人の生徒たちから「高校三年生」の大合唱が巻き起こったという。
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前にプロマイドの話をさせていただいた際に書き残したこと。女性ファンの間でひそかに人気を集めていた一つが、舟木さんと本間さんが制服姿で自転車を押しながら並んで歩いてるカットのもの。本間さんの顔のところに自分の写真をコラージュで類似のツーショットを作って楽しんでいた女生徒らが結構いたようです。プロマイドの小型判で同じように作って定期入れに入れていたファンも少なくなかったということです。スマホなんかがない時代の女性の楽しみ方の一つだったんでしょうね。
舟木一夫さんの写真集「60th／77age」(5000円)が好評発売中です。舟木さんによると、昨年12月12日の77歳の誕生日から今年2、3月にかけて撮り下ろした“Gさんの写真集”ということです。
当面は各コンサート会場で販売し、7月20日(水)から通信販売されます。7月20日以降の問い合わせは、スクーデリア・ユークリッド通販部☎03-3447-3521(平日11時～18時)です。20日前には開設しておりません。