映画学園広場

 

 「高校三年生」に続き1963(昭和38)年8月にリリースされた「修学旅行/淋しい町」も大ヒットすると、大映とホリプロの現場レベルで「修学旅行」の映画化の話も進められた。とにかく当時は新曲が発売されるとテレビがヒットのお膳立てをして映画化されるという“歌謡映画の時代”だった。しかし、「修学旅行」の映画化の話はなかなか進展しなかった。大映社長・永田雅一が外遊中で、帰国してから最終決済のハンコを押すつもりだったらしい。

 

 

 そんな大映側の事情にしびれを切らしたホリプロ社長・堀がやむを得ず映画化の話を日活に持ち込んだ。当時の日活の映画プロデューサーは「ターキー」こと水の江滝子。舟木がデビューした頃から日活のスタッフに「あの子を連れてこなきゃだめよ」と言っていた水の江は「修学旅行」ではなく10月に発売されたばかりの「学園広場」のほうを映画化するということで即決した。これを契機に舟木の出演映画は日活でシリーズ化されることになった。堀は「タイムリーな決断の必要性を教えられました」という。水の江は石原裕次郎をスカウトしたプロデューサーとしても有名だ。

 

 昭和30年代に“テレビの時代”になると、映画館の入場者数、映画館数とも減り続け、映画会社は安い製作費で観客を呼べる映画を作る必要性に迫られていた。日本映画製作者連盟によると、入場者数は33年の延べ11億2745万人、映画館数も35年の7457館をピークに、40年には3億7267人、4649館になっている。歌手のヒット曲を題材にした“歌謡映画”はそんな状況の中で需要が高まっていた。「学園広場」の撮影は11月に行われ、12月11日公開されている。舟木は撮影に向かう車の中で台詞の7割、現場で残りを覚えるという超多忙ぶりだった。舟木はこの映画で「ケンちゃん」こと山内賢、「チーちゃん」こと松原智恵子と初めて出会うことになる。

 

 この映画では脚本家・倉本聰斎藤耕一とともに共同脚本として名を連ねている。倉本の著書「愚者の旅」(理論社)によると、ニッポン放送を退職後に水の江の抜擢で日活の契約ライターになり、橋幸夫舟木西郷輝彦らの“歌謡ドラマ”を執筆していた。台本が完成すると「御前本読み」という会議があって、日活の重役の前で朗読してチェックを受けた。声が小さいと「でかく!」と怒鳴られ、時には「もっと感情を入れて」などと注文され、中には退屈してイビキをかく重役もいたが、そうやって鍛えられたという。

 

― 日活調布撮影所“創る力”展 日活100年の歴史とこれから―

 

 映画「学園広場」には、コメディアンのトニー谷が両手の拍子木でリズムを取りながら「♪あなたのお名前なんてぇの?」と言うと、出演者のアベックがツイストを踊りながら答えるという日本テレビの人気番組「アベック歌合戦」が登場する。長男誘拐事件(昭和30年7月)で一線を退いていたトニーがこの番組で芸能界復帰を果たしていた。千葉県市川市の公民館で行われた本物の公開録音日の午前中に映画の撮影、午後にテレビの本番を撮るというスケジュールだった。舟木一夫&松原智恵子がデュエットするシーンが撮影されるということで、普段は700人前後の観客が、当日は1800人以上で埋まった。

 

                       ― 1950年事のトニー谷・Wikipediaより ―

 

 2人がデュエットしたのは「高校三年生」と「学園広場」の2曲だったが、松原は「舟木さんはツイストが踊れなかったので私が教えてあげたんですよ。歌では私が歌いにくい高いところは舟木さんに助けていただきました」と懐かしむ。舟木の第一印象について、松原は「丁寧で礼儀正しい方。あんなにお忙しかったのに、撮影時間に遅れたことがないし、台詞もしっかりしていらしたことを覚えています。歌手の方は発声練習がちゃんと出来ているから、すっと入ってきても台詞を上手に話されるんですね」と話してくれた。

 

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 プロフィールにも書きましたが、学生時代に好きだった女優さんは「シェルブールの雨傘」のカトリーヌ・ドヌーブ、“黒のシリーズ”や「婉という女」などの岩下志麻さん、そして松原智恵子さんでした。松原さんのプロマイドは手帳に入れて持ち歩いていました。岩下さんの時(竹下通りのお洒落な喫茶店でした)もそうでしたが、10年前に都内のホテルの喫茶室で松原さんにインタビューさせていただいた時も、その気品のある美しさにホントに緊張しましたね。松原さんは66歳になられていたと思います。舟木さんも松原さんの第一印象について「ただただ綺麗な人だなぁって思いました」とおっしゃっているのは実感として分かります。

 

音譜 音譜 音譜

 

 

 

 舟木一夫さんの写真集「60th/77age」(5000円)が好評発売中です。舟木さんによると、昨年12月12日の77歳の誕生日から今年2、3月にかけて撮り下ろした“Gさんの写真集”ということです。

 当面は各コンサート会場で販売し、7月20日(水)から通信販売されます。7月20日以降の問い合わせは、スクーデリア・ユークリッド通販部☎03-3447-3521(平日11時~18時)です。20日前には開設しておりません。