稲荷 | 台本、雑記置場

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 これは井上さんが学生の頃に見た夢の話である。
 その夢は非常にリアルで、井上さんが朝学校に行くために家に出るところから始まった。
 玄関の扉を開け外に出ようとすると、そこに古ぼけた木箱が置いてあったという。
 ボロボロの木箱の蓋らしきところには何か書かれているが、字もだいぶ薄れていてなんと書いてあるかは判別出来ない。
 かろうじて『稲荷』という二文字だけを読み取ることが可能だった。
 井上さんは不気味に思い、その箱を蹴飛ばして学校へと向かった。
 教室に入ると、自分の机の上に何かが置かれている。よく見ると先ほど蹴飛ばしたはずの木箱があった。
 すでにクラスメイト達が登校してきていて、周囲は喧騒に包まれていた。
 どうしたものかと見ていると、木箱の蓋がひとりでに動き始める。
 中に入っていたのは、すっかり錆びたナイフであった。
 井上さんの右手が自然とナイフに引き寄せられる。直感的にこれはいけない、と感じた。
 このままだと自分は、このナイフでクラスメイト達を刺してしまう。言いようのない衝動が井上さんを無理やり包み込んでいく。
 逃げなくてはと思った井上さんは、三階の教室の窓を飛び出し、校庭に飛び降りた。
 そこで井上さんは目を醒ましたという。
 それから数年経った頃のこと。
 井上さんは妖怪好きだったこともあり、SNSで同好の士と繋がっていた。
 その中に、稲荷勧請を受けるという人がいた。稲荷勧請とは、稲荷大社からご神体として御神璽(おしんじ)というものを貰い、それを祀って稲荷神社を作ることだそうだ。
 そこで、その人からご神体である御神璽の写真を見せて貰った。
 御神璽は木箱に入っており、蓋には稲荷大御神璽と書かれている。
 それを見た井上さんは背筋が凍る思いに襲われた。その蓋はそっくりそのまま、かつて夢で見た木箱のものと同じ形だったのだ。そしてその夢は、未だ悪夢として井上さんを苛んでいる。
 井上さんは今も夢の中で、何度も何度も窓から地面へ飛び降り続けているのだ。