ある島にて | 台本、雑記置場

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 これは瀬戸内海の島々を旅行した友人に聞いた話である。
 彼は特に計画を立てることもせずに、定期便で行き来できる島を気ままに行ったり来たりしていたらしい。
 時には漁船に乗せてもらったりもして、行ける範囲の島はすべて回ろうと意気込んでいたのだという。
 そんな島巡りの最中、ある島で突然豪雨に見舞われた。
 非常に激しい雨であったが、友人は降りしきる雨以上に顔色を豹変させた島の住人達の様子に驚いたという。
「この世の終わりみたいな顔って言うのかな。もう皆、真っ青な顔をしてさ」
 友人は近くにいた島の人に尋ねた。すると――
「強い通り雨にゃあ『えにずぁさぁ』がついてくる。あんたもしばらく島から出るな」
 と言われたのだ。『えにずぁさぁ』という言葉が正確かどうかは自信がないらしい。なにせ島の人のなまりは凄かったし、村中大慌てで皆何を言っているのかさっぱりな状態だったのだ。
 島の浜辺では『お焚ぎ』と呼ばれる大きなたき火が燃やされて、どの家の軒先にも山のような盛り塩がされた。一日に一本しかなかった船の運航も見合わされ、友人は島で足止めを食らうことになった。
「いつになったら船の運航は再開されますか?」
 友人が尋ねると船員さんが眉間にしわを寄せた。
「次の雨が『えにずぁさぁ』を運んで行ってくれたら、いつでも再開するんだけど」
 船員さんいわく『えにずぁさぁ』は通り雨についてくる良くないもので、島に居座るとそこで悪さをしていくのだという。子供が神隠しにあったり、人が急に狐憑きになったように狂ってしまったりするらしい。
 『お焚ぎ』で雨を呼び海辺を清め、家々は塩を盛り『えにずぁさぁ』が入ってこれないようにする。そうして、次の雨が『えにずぁさぁ』を連れて行くのをじっと待つ。
 友人は島で一軒の民宿で五日間を過ごすことになったという。
 その間、村はピリピリしていたが、人が亡くなったり誰かがおかしくなるなんてことは起きなかったと言っていた。
「たださ、ひとつ気になることがあるんだよ」
 五日目の朝、友人が民宿の入り口を出ると玄関脇の皿にたっぷりと盛られていた塩に、黒い何かの跡がびっしりとついていたらしい。
「鳥の足跡でも虫でもない。あんなもの、初めて見たな」
 そう言って友人は首を左右に振った。
 彼はそれきり、島巡りをやめたらしい。今でも、友人は通り雨が大の苦手である。

 

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