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 日常的に市販薬の過剰摂取(オーバードーズ)をしている水野さんの話。
「僕がまだ二十歳前の話です、クスリなんか始める前ですよ。だから至って健全な時の体験談として聞いて欲しいんですが」
 若き日の水野さんは実家に住んでおり、一階が水野さんの部屋。二階に両親の部屋があった。
 ある夜、水野さんの自分の部屋にいると階段の方からミシミシと木の軋む音が聞こえてきた。
 水野さんの家の階段は木造だったので、誰かが降りてきたのだろうと思ったという。
 しかし、階段の音は上の階から下の降りてくるだけで、いつまでも上がっていかない。
 何をしているんだろう、と不思議に思いながらもその時はあまり気にも留めなかった。

 しかし翌日の夜、また階段を降りてくる音がする。
 耳を澄ませてみても、いつまでも昇っていく音はしない。
 そんな事が毎晩続くようになった。
「一階には台所や冷蔵庫があったので、両親のどちらかが用事があって来たのかなとも思ったんですが、それにしても昇る時だけ音がしないのは妙な話で」

 ある夜、再び階段を降る音が聞こえた時、水野さんは自室のドアを開いて音の主を探した。
 だがそこに広がっているのは夜の暗闇だけで、水野さんのご両親の姿はなかった。
 電気も点けずに降りてきたのかもしれないと思った水野さんが灯りを点けてみても、やはりそこには人っ子一人いないのであった。
「怖くって、鳥肌が立ちましたよ。でも人間不思議なもので、こういう現象でも日を追うにつれて慣れていくんですよね」
 古い家である。湿気か何かの加減で木が鳴っているだけかも知れない。
 水野さんはそんな風に考えて、毎晩聞こえてくる音も気にしないようになっていく。

 毎晩のように続く階段を降りる音。
 その日も水野さんは、ああ、またか……と思いながら音を聞くでもなく感じていた。
 けれども、この日は階段を降りきった後も音が鳴りやまなかったのである。
 ミシミシと床を鳴らして動く足音が、水野さんの部屋の前までやってきた。
 これは湿気のせいなんかじゃない――。
 水野さんはそう感じたが、もしかしたら今日の音は本当に家族の足音なのかも知れないとも考えた。
 だとすると、その家族は水野さんの部屋の前で突っ立っていることになる。
「何か用っ!? ってでかい声で怒鳴っちゃって。当時は血の気が多かったんです」
 ドアに向けて声を掛けたが、一向に返事は返って来ない。
 ――ふざけてんのかよ。
 そう思うと今までの音も家族のせいだったのではないかという思いも出てきた水野さんは、苛立ちながらベッドから飛び起きて勢いよく部屋のドアを開いた。
 そこには、真っ暗な廊下が広がっているだけであった。
 水野さんは頭から血が下がって行くような感覚に襲われる。

 その後も音は鳴りやまず、ある日水野さんは友人を家に泊めてみる事にした。
 階段の音の異変は話しており、これが自分だけに聞こえるものなのか、それとも誰にでも聞こえるのか検証してみようと考えたのだ。
 夜になり、階段を降る音がする。
 水野さんは友人と二人で勢いよくドアを開け、懐中電灯で音のした場所を照らした。
「だけどやっぱり何もないし誰もいないんです。友人も血の気を失ってましたよ」
 自分だけが聞こえているワケじゃない。
 それならばやはり物理的な何かなのではないか。
 そんな風に無理やり自分を納得させて、水野さんはその音をなるべく気にしないように暮らしていた。

 それから一週間ほどが過ぎた時の事。
 もう音にも慣れてきた水野さんは、部屋の前までやってきた音にため息をついた。
 しつこいな、と思っていると水野さんの部屋のドアがコン、とノックされた。
 ――今度こそ人間の仕業だ。
 ノックをしたのだから、音の主はいるはずだ。音が幻聴ではないのは友人も確認している。
「何の用?」
 水野さんはぶっきらぼうに言ったが、返事はない。
 ドアを開ける。そこにはノックしたはずの誰かは存在せず、暗闇だけが静かに佇んでいた。

「だけどね、不思議な事にそれから足音と思われる音はしなくなったんです」
 あれはなんだったのかと考えると、水野さんは今でも鳥肌が立つという。
 ただ、階段から部屋の前まで続く足音らしきものが止んだ後、水野さんの部屋には再び異変がやってきている。
「部屋にいると視線を感じるんですよね。でも振り返っても誰もいなくって」
 ノックされたドアを開いた事で、階段に居た何かを部屋に招き入れてしまったのではないか。
 視線を感じるたびに、水野さんは寒気を覚える。
 氷のように冷たい感覚が背中から両肩に、そして首筋まで這い上がっていく。
 部屋の視線が気になり、部屋の外の微かな物音にも敏感になる。
 クスリを過剰摂取するようになった今でも、視線を感じる事は幾度となくあるという。
「意識が朦朧としている時は出てこいよ、なんて気軽に言っちゃうんですけどね。これってやっぱり何か憑りつかれているのかなぁって。いい加減良い歳だし実家を出てもいいかなって思うんですけど、先立つものが無いんですよね」
 水野さんはすっかりそげてしまった頬を微かに動かして、力なく笑った。

 

 

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