子供のころ、大好きなお人形さんがいた。
フリルのついたお洋服を着た、着せ替え人形だ。
ほかにも服はいくつかあった気がするが、小さな私はあの人形――ルリちゃんにはフリルが一番似合うと思い毎日それを着せていた。
ある日お父さんの転勤で私も転校することになった。小学校三年生のときのことだ。
仲良しなクラスメイトたちと離れて知らない学校にいくのが心細くて、私はこっそりルリちゃんをランドセルのなかにしのばせて行った。
馴染めない初めての教室。
はじめましてのクラスメートたち。
私は心細くなってはこっそりルリちゃんに手を伸ばし、彼女の髪を撫でて自分を落ち着かせていた。
でも、その様子をクラスの男子に怪しまれて、ランドセルを取り上げられてしまった。
「おい、転校生が人形持ってきてるぞ」
「やだー、幼稚園の子供みたーい」
「やめて! 返してよ!」
男子も女子も、私が人形ひとつに大慌てするのが面白くって笑っていた。
やがて泣き出した私に人形を手に近づいて「泣いちゃダメ!」なんて声色を変えてからかったりもし始めた。
私は悔しくて、からかってきた子に思いっきり体当たりをして、ルリちゃんを取り返した。
けれどルリちゃんを持っていた男の子は私の思わぬ反撃に後ろに転げて、額を切ってしまった。
今ならば大したケガではないとわかる。
でも、まだ幼かった私は顔から血が出ているというだけで、とんでもないことをしてしまった気持ちになったものだ。
「何するんだ!」
「ひどい! さいてー!」
クラス中が私を非難する。
私もどうすればいいかわからなくって、青ざめて震えていた。
ひとりの女の子が、ルリちゃんを指さして言った。
「そんなものを持っているからいけないんだよ。捨てちゃいな!」
そこからはもう、教室中の子供たちから「捨てろ!」の声が何度となく投げかけられた。
私はその声が、言葉が、クラスの子たちの目が恐ろしくて仕方がなかった。止まない声に背中を押されるようにして、私は教室のすみっこのゴミ箱に歩み寄った。
ふらふら、ふらふらとおぼつかない足取りで。一歩ずつ、一歩ずつ。
――そして。
ルリちゃんを、薄汚れたゴミ箱のなかに放り込んだ。
二十年たった今でも、私はあの時のことを後悔している。
ルリちゃんが、ルリちゃんが……と両親にも何度となく話していた。
そのせいで、娘が生まれた時に母は『瑠璃』という名前を提案してきた。そして何も知らない主人は、その名を私たちの子供に名付けてしまったのだ。
瑠璃ももう小学三年生だ。
フリルのついた洋服が似合う、可愛らしい子に育った。
ある日、瑠璃がじっと部屋の隅のゴミ箱を見つめていた。名前を呼んでも返事をしない。私は心配になって、瑠璃の背中に手をかけた。
その瞬間――
振り返った瑠璃が、にぃっと笑って言った。
「お母さん、私をゴミ箱に捨てないでね」
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2022年06月10日 12:14