初めてのありがと探し | 台本、雑記置場

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初めてのありがと探し


CAST
コナツ:森深くの館に生きる、獣耳の生えた子供。声的に女性推奨。
シェイド:館の主。かつて捨てられていたコナツを拾い共に暮らす。
狼:森の狼。館の主とは古い知り合い。コナツの兄のような存在。
熊:森のお父さん的熊。温和な性格。
リス:森の元気っ子リス。
N:ナレーター


~役表~
コナツ:♀:
シェイド:♂:
狼:♂:
熊:♂:
リス:♀:
N:不問:


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


N:ここはとても霧深く、人が見つける事の出来ない不思議な森。
  そんな場所にある、ひっそりとたたずんだとっても古い洋館が一軒。
  森の洋館の主シェイドと、コナツという子供がくらす場所。
  今日もゆっくりと、二人の朝がはじまります。


SE:ピアノの音


コナツ:ん…?もう朝かぁ…。ふぁ~。よく寝た…。ご主人様のピアノの音、
  今日もきれい。ご主人様のところに行こうっと!


SE:ドアを開く


コナツ:ご主人様、おっはよー!
シェイド:やぁコナツ、おはよう。今日は早いお目覚めだね。
  ちゃんとよく眠れたかい?


コナツ:うん、ぐっすりだったよ!
シェイド:そうか、それは良かった。お腹は空いているかい?


コナツ:うん!
シェイド:よし、じゃあ広間に行こうか。


N:シェイドはコナツを抱き上げると、広い洋館の奥に歩いてゆきます。
  コナツは抱きかかえられながら、深く息を吸い込むのでした。


コナツ:ご主人様、今日もいいにおい。
シェイド:昨日は太陽が良く出ていたからね。シャツが綺麗にかわいたよ。


コナツ:えへへ、ご主人様はいっつもお日様のにおいだね!
  ボク、ご主人様の真っ白で綺麗なシャツの匂い大好き♪
シェイド:ふふ、そうかい。


N:広間に近づくのつれ、お日様のにおいとは別の香りがコナツの鼻を
  くすぐりました。甘い香りの正体は…


コナツ:このにおい…。今日のごはんは卵焼き!
シェイド:さすがに鼻が利くな、コナツ。ご名答。


N:コナツはシェイドの腕からぴょんと飛び跳ねると、広間のテーブルに
  駆け寄ります。そこにはふたがしてあるお皿が2つ。


コナツ:うわぁ、おいしそうなタマゴだぁっ!


N:そこには猫舌のコナツが火傷しないように、あらかじめ作っておいた
  フワフワの卵が、デミグラスソースをそえておいてありました。
  横には彩り豊かな山の温野菜も添えてあって、においも見た目もとても
  おいしそうなものでした。


コナツ:わぁい!ご主人様の特製の、フワフワ卵プレート!!
   いっただっきまーす!     
シェイド:よしよし。たまごは逃げないから、よく噛んでゆっくり食べるんだよ。
  さて、ぼくも食べようかな。いただきます。


コナツ:おいしいー!ご主人様の料理好きー!
シェイド:口に合ったみたいでなによりだよ。


コナツ:うん!ご主人様、ありが…と……ううん…
シェイド:ん?コナツ、どうしたんだい?


コナツ:ありがと…ありがと…あれ、あれ…?大変だ!ぼく、「アリガト」が
  わからないっ!
シェイド:わからない?それはどういうことだい?


コナツ:ぼく、きちんとありがとの意味がわかってない!これじゃ、ご主人様に
  ちゃんとしたありがとが言えないよぅ!
シェイド:うん?いいんだよ。コナツはありがとうをきちんと出来ているさ。


コナツ:でもでも…。あ、そうだ!誰かにありがとを聞いてみよう。
シェイド:誰かに聞く?ふふ、本当にどうしたんだ?コナツ。


コナツ:はむはむはむ!…ごちそうさま!いってきまーっす!
シェイド:ちょっと、コナツ?どうしたんだ?ご飯をそんな急に詰め込んで!
  よく噛みなさい!行くってどこに…


N:コナツは凄いはやさでご飯を詰め込んで、席を立ちました。シェイドは
  びっくりしていましたが、コナツは元気よく窓からジャンプしたのでした。


シェイド:コナツ~っ!暗くなる前にはちゃんと帰って来るんだぞ~。
  やれやれ。まだ森のことばをきちんと理解できていないのかなぁ…。


N:屋敷を飛び出したコナツは、ぽかぽか木漏れ日を浴びながら、森の奥を
  テクテクと進んでいったのでした。すると、倒れた木の幹に腰かけた、
  とっても大きな影が1つ。近づいてみると、この山に住んでいる仲良しの
  クマさんがおりました。


コナツ:クマさーん!こーんにーちは!ねぇねぇ、なにしてるの~?
クマ:やあ、コナツじゃないか。今日も元気だな。今、森でとれたものを整理して
  いたところさ。


コナツ:セイリ?……あ、お片付けかっ!
クマ:そうそう。片づけだね。コナツこそ、お屋敷を出てこんな遠くまで、
  どうしたんだい?


コナツ:うん!あのね、ぼく、いつもおいしいごはんを作ってくれて、
  ボクをとーっても大事にしてくれる御主人さまに「アリガト」したいんだ。
  でも、アリガトがちゃんとわからなくって……。
クマ:はっはっは!なるほどなぁ。そうかそうか。コナツは、アリガトを
  知りたいのか。


コナツ:うん、ねぇクマさんは、アリガトって知ってる?
クマ:そうだなぁ…。俺にとってのアリガトは、山に対するものかな?
  いつもおいしい食べ物をくれるのは、この山だからね。コナツはご主人さまに
  アリガトをするんだろう?きっと俺とは違うアリガトになるんじゃないかな。
  コナツがご主人さまのことを思って、探してみるといい。


コナツ:うーん、そっかぁ…。アリガトって皆それぞれ違うんだね。難しいなぁ。
クマ:そうだ、コナツのアリガトは教えてあげられないけれど、俺のアリガト…
  つまり、山や山にいる生き物から貰ったものをわけてあげよう。ご主人様への
  お土産にしたらいい。


コナツ:本当に?やったぁ!
クマ:今ちょうど、木の皮や枝でかごを作っていたんだ。それをもってくといい。
  かごの中に、山のアリガトが入っているから、ありがと探しの参考にも
  なるかもしれないな。


コナツ:わぁい!嬉しいなっ!よいっしょ…
クマ:ははは、持ちにくいかな。ほれ、こうしてしょっていくといい。転ばない
  ようにな。


N:そういうとクマはコナツにカゴをせおわせて、頭をなでてあげたのでした。


コナツ:うん!クマさん、またね!ぼく、アリガトをもっと探してみるよ!
クマ:そうかい、気をつけて行くんだよ。


コナツ:はーい!クマさん、まったね~!
クマ:いっておいで。…ありがとを探す、か。不思議な子だな。きっと素敵な
  ありがとを見つけられるのだろうな・


N:コナツはクマと別れて、また森の中を歩きだしました。ふと空を見れば、
  いつの間にかおひさまがお空の真ん中近くまで昇っていました。
  ずいぶん歩いたけれど、クマとお話して、クマがくれた山のアリガトを
  しょって、コナツはご機嫌に鼻歌まじりに山道を歩いていったのでした。


リス:コナツ!コナツー!
コナツ:あっ、リスくん!こんにちは!どうしたの?


リス:コナツ、いいとこに来てくれたよ~。実は、ちょっと爪を怪我しちゃって。
  うまく木に登れなくて、朝からなんにも食べられて無いんだ、もう腹ぺこ
  なんだよ~。
コナツ:ええっ!怪我したの?大丈夫?見せて!


リス:いや、大した傷ではないんだ。でもうまくつかえなくって…
コナツ:う~ん、爪は少し傷ついているけど…平気?


リス:うん、怪我は夜、森の名医のふくろう先生に治療して貰おうと思っている
  から、大丈夫。ただ、もうお腹が空いて…どんぐりも落ちてないし。
  はらぺこだよぅ!
コナツ:リスくん、お腹がすいちゃってるんだね~。うーん。そうだ!
  じゃあ、ぼくがクマさんから、山のアリガトを貰ったから分けてあげるよ!


リス:クマさんから?でもそれはコナツが貰ったものだろ?なんだか悪いなぁ。
  それよりも、オイラをあそこの木まで運んでくれないか?木の上なら美味しい
  木の実が沢山食べられるしさ。
コナツ:うん、わかった!でもリスくんの美味しいものがある木が、ボクには
  わかんないや。どの木にのっけたらいい?」


リス:そうだなぁ。あ、あそこに二つ並んでる木がいいな!あの木なら枝も
  沢山あるから、下の方にのっけてくれれば、この爪でも登れそうだ。
  降りるのは簡単だしね。
コナツ:あそこの木だね~、わかった~!はい、これでいいかな?


リス:うん、助かったよ!そういえば、コナツはこんな遠い所まで一人で
  来たのかい?
コナツ:クマさんにも話したんだけどね。ぼく、いつもおいしいごはんを作って
  くれて、ボクをとーっても大事にしてくれる御主人さまに「アリガト」
  したいんだ。クマさんには、食べ物をくれる山のアリガトがあるんだって。
  だからぼくはご主人さまへのぼくのアリガトを探してるんだ。

リス:そっかぁ。ご主人様へのコナツのありがとかぁ。よし!じゃあ、ちょっと
  待っててね。


N:そういうとリスは怪我をした爪をかばいながらも木の上を走って行きます。
  しばらくすると、コナツのしょっていたかごに、ポトリと何かが落ちてくる
  音がしたのでした。


コナツ:あれ、かごに何か…?
リス:ちょうどコナツのかごの上のとこに、おいらの大好物…。おいらの木の
  アリガトがあったから、入れておいたよ!木にのせてくれたお礼だよ。
  受け取ってよ。


コナツ:えぇ~、いいの?やったぁ~!
リス:助けてもらったのだから、お互い様さ。コナツが探しているアリガト、
  見つかるといいね。


コナツ:うん!見つけられるように、ボク頑張るよー!じゃあまたね、リスくん。
  怪我、ちゃんとふくろう先生にみてもらってね~。
リス:は~い、またね~。ありがと探しかぁ。コナツは素直な子だなぁ。


N:コナツはリスとバイバイして、また山道をあるいていきます。
  そうしたら、ちょっと開けた岩場にでました。そこには、狼おじさんが
  日に当たってのんびりと横になっているではありませんか。
  コナツは最初、狼おじさんが怖くて仕方がありませんでした。ですが、
  狼おじさんはコナツのご主人さまの古い知り合いで、一緒に暮らしている
  コナツにもとっても良くしてくれました。だから、今はコナツもすっかり
  狼おじさんになついていたのでした。


コナツ:狼おじさーん!こんにちは~。
狼:お、チビ助じゃないか?どうした。ひとりで山道を散歩か?

コナツ:ううん、あのね…


N:コナツは、クマやリスにしたお話を、狼おじさんにも話しました。。
  狼おじさんは、うんうん、そうかぁ…と優しくうなずきながら、話を
  聞いてくれました。


狼:なるほどなぁ。御主人さまへのアリガト、を探しているのか。チビ助も
  そういうことを考えるくらいに成長したんだなぁ。
コナツ:えへへ…。でもね、どうしたらいいのか、なかなかわからないんだー。
  クマさんのアリガト、リスくんのアリガト。せっかく色々聞けたのに…。
  ボクはありがとって何をしたらいいんだろう?


狼:なぁ、チビ助。クマのやつにはクマのやつの。リスのやつにはリスのやつの
  「アリガト」があるんだろ。けどな。クマのありがとやリスのありがとに、
  アリガトを思っているやつだっているんだぜ?
コナツ:え?どういうこと?狼おじさん。


狼:あいつらが木の実や果物、いろいろなものをとる。そして、その種を
  地面に還す。そうすると、新しい木が生まれて、また実をつけるんだ。
  わかるか?
コナツ:そっかぁ…だれも木の実や果物を食べてくれなかったら、傷んで悪く
  なっちゃうもんね。


狼:そうさ。そりゃあ、果物によっては腐って落ちるものもあるかもしれねぇ。
  けど、悪くなった種じゃあ木は生えることが出来ないんだ。
コナツ:えーっと、えーっと。じゃあ、木も、果物を食べてくれる相手に、
  アリガトがあるんだね!


狼:そうさ。だから、アリガトは、どっちかだけ、片方だけのものじゃあ
  ないんだ。俺に言えるのは、これくらいかねぇ。
コナツ:アリガトは、どっちかだけとか、片方だけのものじゃない…かぁ。
  むずかしいよー。


狼:はっはっは!そんなことないさ。ちゃんとアリガトをしなくちゃ、て思えた
  チビ助なら、きっと答えを見つけられるさ。
コナツ:そう…かなぁ…。でもなんか、ご主人さまにアリガト、したくなってきた!
  まだあんまりわかんないけど、アリガト、届けたくなった!


狼:うんうん。それでいい。こんなとこまで歩いてきたんだ。ずいぶんな時間、
  一人で出かけて来てるんだろ?そろそろ帰った方がいいしな。
コナツ:あ!そうだよね。あんまり遅くなっちゃったら、ご主人さまが
  心配しちゃう~!


狼:そうだろ?もう帰るといい。…ああ、そうだ。お前のご主人に俺も世話に
  なってるからな。俺からもアリガトを送らせてくれよ。
コナツ:えー!いいの?狼おじさん?


狼:おう。お前さんのご主人とも長い付き合いだからな。こんな機会でもないと、
  俺もアリガトなんて、こっぱずかしくてできやしねぇや。俺の家も、チビ助の
  帰り道の途中だからな。一緒にいくか。
コナツ:うん!

狼:おし、じゃあつかまれチビ助!


N:狼おじさんはそういうと、コナツを背中にのせ、自分の家まで行ってくれた
  のでした。狼おじさんの背中で風を感じながら、コナツはは暖かい気持ちで
  帰路につけたのです。


狼:さてっと、ここが俺の家だ。よいしょっ…と。ほれ、こいつをもってきな。
コナツ:わーい!おうちの傍まで送って貰っちゃった上に、贈り物まで…
  アリガト!あ…アリガト?ボク今…。


狼:な、チビ助にもちゃんと出来るだろ。ご主人によろしくな。もう家まで
  すぐ近くだが、気をつけて帰るんだぞ。
コナツ:うん!じゃあね狼おじさん、ア…アリガト!


N:コナツは駆け出しながら、何度も心の中で叫びました。


コナツ:アリガト、アリガト、ありがとぉ!!ぼくにもありがと、出来るんだ!
  はやくご主人様に会いたいな。ありがとって伝えたい!


N:そうしてコナツは、屋敷に戻ると元気よく声をあげました。


コナツ:ご主人様、たっだいまぁ~!
シェイド:おかえりコナツ。今日はいつもより長い時間散歩をしていたんだね。
  少し心配したよ。おや、そのかごはどうしたんだい?何か、色々入っている
  ようだけど…。

コナツ:えへへ…。あのね。今日は、山の皆に会ってきたんだよぉ!それでね、
  それでね、えっと…うんとね、御主人さま…うまくいえないけど…


クマ:ありがとう。
コナツ:(クマさんのありがと)
リス:ありがと!
コナツ:(リスくんのありがと)
狼:ありがとな!
コナツ:(狼おじさんのありがと…ぼくの、ぼくの…)


シェイド:うん?どうした、山でなにかあったのかな?
コナツ:ご主人さま…、ボク、ずっと出来なかったんだけど…きちんと
  しなきゃって思って…!あの、ご主人さま、いつも、アリガト!

シェイド:ありがとう?
コナツ:いつも、いつも。おいしい料理を、アリガト!猫舌のボクのために、
  いろいろ工夫をしてくれて、アリガト! …ずっとそばにいてくれて、
  アリガト!


N:コナツの言いたかったこと。伝えたかったこと。気持ちの奥にいつもあった
  こと。森の皆のおかげで、ようやく言葉に出来たこと。コナツはそれを
  ようやくご主人様へ伝えられたのでした。


シェイド:そうか。コナツは、ありがとうが出来るようになったんだね。

  じゃあ、私からもいわせておくれ。いつも、私の料理を笑顔で食べてくれて、
  ありがとう。いつもそばにいてくれて、ありがとう。

コナツ:御主人さま…。あ、そうだ!あのね、これ、皆がわけてくれた、
  森や木や、狼おじさんのありがとうなんだ!


シェイド:なるほど、これは皆のアリガトがつまったカゴなんだね。
  へぇぇ…。これは凄い。沢山入っているんだね。よし、今日のコナツの
  ごはんは、皆のアリガトのつまった食材で作って、皆のアリガトを頂こうか。
コナツ:うわぁい!皆のアリガトをご主人さまが料理してくれるんだね!


シェイド:うん、いろいろ貰ってきたね、コナツ。そうだ、皆に今度、
  ちゃんと「アリガト」してこないとだね。
コナツ:うん!


シェイド:よし、それじゃあ早速料理を作ろう。コナツ、一緒に手伝っておくれ。
コナツ:は~~い!


コナツ:その日食べた、皆からもらったありがとうは、とってもおいしくて、
  とっても優しくて。ぼくはずっと笑顔で、ご主人様とテーブルを囲んで
  いたんだ。
  ご主人様、皆、ありがとう。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


終わり





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