逆さまの世界 | 台本、雑記置場

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逆さまの世界


CAST

蛍(ほたる)
遼(りょう)


~劇中表記~


蛍:♀:
遼:♂:


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


遼:ここは…?ぼくは…なんでこんなところに…?


遼:なんだろう、ここは。熱くも寒くも無い。壁も窓も扉も無い、なんにもない…。


蛍:いらっしゃい。迷い人さん。

遼:…君は?


蛍:ほたる。私はそう呼ばれているわ。迷い人さん。


遼:ほたる…。その、蛍…さん。迷い人さんって一体…?僕の名前は遼だ。


蛍:そう。でもあまり私には関係のない事なの。迷い人さん。


遼:そっか…。でも別に僕は迷っていない。


蛍:そうかしら?じゃあここがどこかわかるの?なんでここに自分がいるか、わかるの?


遼:それは…わからない。


蛍:なら、あなたは迷い人さん。無表情な迷い人。


遼:無表情で、悪かったね。


蛍:別に。珍しいだけよ。ここに来る人は、戸惑ったり、怖がったり、泣いたりしている。
 あなたにはなんにもない。


遼:僕の顔の裏側には、鍵がかけられているんだ。だから、心から怒ることも笑うことも、
 驚くことだって出来ない。


蛍:かけられている?自分でかけたんでしょう?


遼:君に何がわかるんだよ?


蛍:自分の顔に、自分の心に鍵をかけれるのなんて、自分だけよ。


遼:僕は…作り笑いすることしか許されなかったんだ。ほんとは今だって叫びたい。
 君に何がわかるんだ、僕の何がわかるんだ。って…けど、鍵がかけられているんだよ。


蛍:鍵なんてかけられていない。あなたは自分で自分の顔に仮面をかぶせて、心にふたをして
 いただけ。誰も人に鍵なんてかけられない。自分以外は。


遼:わかったようなことを言わないでよ。僕は家でも学校でも、作り笑いをしなきゃいる場所
 すらなかったんだ。どこにも…どこにも…!


蛍:あなたは今、心から怒っているじゃない。さっきまでの無表情も、変わってきている。
 あなたは、周りを気にしすぎた。気持ちを抑え過ぎていた。どこにも吐き出さず、一人で
 いつも仮面をかぶっていた。


遼:そうだよ!それしかなかったんだ!父さんに、母さんに、クラスメートに!作り笑いを
 してやり過ごすしかなかったんだよ!クラスの皆は見ているんだ、おんなじ顔で笑わなきゃ。
 笑わなきゃ…。笑わなきゃ…。そうじゃないと…。それしかなかったんだ!


蛍:あなたは一度も試しはしなかった。怒ることを。相手を思いやることを。傷つけるのが
 怖かった?それとも、自分が傷つくのが怖かった?


遼:どっちも怖かったよ!そうだよ、そうさ!僕は怖かった。皆と同じにしなくちゃ。家族を
 壊しちゃいけない。楽しそうにしてなきゃいけない!けど、何も楽しくなんてなかった
 んだよ!怖かったんだよ!同じに出来ないことが。だから顔にも心にも鍵をかけられたんだ。


蛍:あなたは自分で鍵をかけた。確かにあなたは見られていたのかもしれない。家族はあなた
 の笑顔を望んだのかもしれない。けれど、自分で決めたんじゃない。怖かったんでしょう?
 あなたは逃げたのよ。話しあうことからも、ぶつかり合うことからも。ううん、人間という
 存在そのものから。


遼:違う!違う違う!!僕は逃げてなんかいない!逃げないために作り笑顔で過ごした!
 そうしてずっと生きてきたんだ。僕は…鍵を…!…ぼくは、カギ、を…。


蛍:ほら、やっぱり自分で鍵をかけていたんじゃない。周りの重圧に責任をなすりつけて、
 自分で何かに踏み出すことをやめた。多数の中に極度に埋もれる事を選んだ。そうして
 つくりあげた仮面を。かぶせてきたふたを。鍵をかけられたと決め込んだ。


遼:どうしようも…無かったんだ…。どうしようも無かったんだよ!ちくしょう…、
 ちくしょう…!


蛍:ここに居るあなたはとっても表情豊か。怒って、泣いて。きっとあなたは皆の前でも
 自分をありのままに出せば良かった。傷つける事が怖いなら、傷つくことが怖いなら、
 きっと人の痛みをわかる人になれた。


遼:そう…だね…。そうかもしれない。こうやって気持ちを思い切り吐き出したのは、初めて
 だよ。皆の前でも、思った事を表情に、言葉にしてみればいいのかな…。


蛍:きっと、そうだったのよ。でもね。あなたはもう迷い人なのよ。


遼:そういえば…。その迷い人って…。それにここはどこなんだ?


蛍:あなたは迷い人。覚えていないの?真っ逆さまになって、あなたは自分の中の世界を
 変えようとしたんじゃない。…覚えていないからこそ、迷い人になったのね。


遼:真っ逆さまの…世界?


蛍:あなたは飛び降りた。真っ逆さまになった世界を見たくって。それはあなたにとって自殺
 なんかじゃ無かったのかもしれない。けど…。


遼:そうだ…!僕は、世界を変えたくて…変えたくて、逆さまの世界を生きようと思って…。


蛍:あなたは自分が変わる努力をせず、世界を変えようとした。そうして、どうしたの?
 思い出せるはずよ。あなたは。


遼:ぼくは…真っ逆さまの世界に行きたくて…飛んだ。高い高い所から…とん…だ…。
 飛んで、どうなった?どうなったんだ?僕はここにいる。何も逆さまになってない!
 どうなったんだ!?


蛍:あなたに空を飛ぶことなんて出来なかった。あなたの飛んだ先には、冷たい地面がある
 だけだった。あなたは家族から逃げ、学校から逃げ、全てから逃げた。


遼:ぼくは…すべてから…全てってなんだよ、教えてよ!


蛍:あなたはもう、人生からも逃げたんじゃない。本当に、思い出せないのね、迷い人さん。


遼:人生からも…逃げた…?それって…。


蛍:あなたは死んだ。そういったほうが、わかりやすいかしら?


遼:ぼくは、死んだ?…そんな…、ただ、世界を変えたかっただけなのに!違う世界が
 見たかっただけなのに!


蛍:真っ逆さまになって見た世界はどうだった?あなたの未来は見えた?世界は変わった?


遼:なにも…わからない。


蛍:迷い人さん。私は、あなたのような人を導くために存在しているの。…一緒に、
 行きましょう?


遼:死んだのなら…どこに行くのさ?天国!?地獄!?そんなの、あるはずがないだろ!
 人は死んだらおしまいだろ!?


蛍:さぁ…私の使命はこの部屋に迷い込んだ人を送り届けるだけ。


遼:どこへ?


蛍:それは、私もわからない。あなたが私の手を取り、私はあなたを導く。それが天国とか、
 地獄とか、生まれ変わるだとか、それを決めるのは私ではない。もしかしたら、決めるのは
 あなたになるのかもしれない。そうしたら…。


遼:そうしたら?


蛍:今度があるか、私にはわからない。あるかもしれない。無いかも知れない。
 それしか私にはいえないわ。でももし、今度があったなら、今度こそ、自分で道を選んでね。


遼:ありがとう…。そうだね。今度があったなら…ぼくは自分で選んでみせるよ。


蛍:さあ…いきましょう。


遼:うん。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


終わり






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