ジェンダーの理解が深まる「水を縫う」 | akikoの読書日記

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本好きな方へ

 新聞や雑誌の書評で高評価を得ていて、河合隼雄物語賞を受賞している「水を縫う」(集英社文庫)を買っておいたので読んでみた。

 手芸が得意な男子高校生・松岡清澄が主人公。中学時代は浮いていて友達がいないことを家族に心配されている。しかし、本人は好きな刺繍に夢中で、他人にどう思われようが気にしない強さを持っている。ジェンダーがテーマの家族小説なのだ。姉は幼い頃に受けた被害のせいで「可愛い」を拒否する生活を送り、自身のウエディングドレスも「飾りのないシンプルなもの、体のラインを出さないもの、腕や胸など肌を出さないもの」がいいと主張する。そこで、清澄が自分で縫うと言い出す…という思わぬ展開に。離婚してシングルマザーの母は、子どもが保育園のときから「手作りが愛情の表現なんておかしい」と主張するも、清澄にはイジメられないよう「普通の男の子のようにスポーツやって」と言う。そして、「子どもには失敗する権利がある」と言って自主性を重んじる祖母。いずれもよくわかる。可愛い洋服を着ていたのが原因と言う教師による二次被害に遭った姉は、「可愛い」を拒否したくなるだろう。母親としては息子がイジメに遭わないよう心配するのも当然だろう(ただし、それを当人に直接言うかどうかは別だが)。子どもの自主性を重んじる70代の祖母は私に近い世代だから、気持ちはよくわかる。そして、離婚した父親を社員として雇う専門学校時代の同級生・黒田の存在が、家族とは何かというテーマを浮かび上がらせている。

 ジェンダーについて理解しているつもりでも、私たちの世代では祖母・文枝のように理系の得意な女の子にはつい「女の子なのにすごいね」と言ってしまいがちだ。雇用機会均等法以降の共働き世代に育てられた男の子は、家事を難なくこなす子が多いように思う。私たちの世代では趣味として料理をする男性はいても、家事として日常的に料理する男性はきわめて少ない。この小説はそうした50代以上の世代にこそ読んでほしいと思った。